1. HOME
  2. お役立ち情報
  3. 講師特別コラム
  4. 三上康一氏【人材不足・人材育成】
  5. 社員の退職を防ぐ経営術—退職型倒産124件の衝撃と、社員の心をつかむ心理学【三上康一講師コラム】
講師特別コラム

あの講師の特別連載コラム

三上康一氏【人材不足・人材育成】

社員の退職を防ぐ経営術—退職型倒産124件の衝撃と、社員の心をつかむ心理学【三上康一講師コラム】

社員の退職を防ぐ経営術—退職型倒産124件の衝撃と、社員の心をつかむ心理学【三上康一講師コラム】
講師派遣・講演依頼の講演サーチに無料で問い合わせる

社員の退職を防ぐ経営術——社員の心をつかむ心理学

執筆講師

三上康一さんお写真三上康一(みかみ こういち)
三上康一(みかみこういち)

株式会社ロードサイド経営研究所代表取締役

■静かなる有事、「退職型倒産」の現実

帝国データバンクによると、2025年に判明した人手不足倒産のうち、従業員や経営幹部などの退職に起因した「従業員退職型」の倒産は、124件となりました。これは2013年以降で最多を更新したことになります。資金や仕事があっても、社員の離職によって事業が立ち行かなくなるケースが増えています。

ある日突然、現場を回していたエース社員が「辞めさせてください」と告げる。その衝撃が冷めやらぬうちに、彼を慕っていた中堅社員が続き、不安に駆られた若手も去っていく。

「代わりはいくらでもいる」という言葉が通用した時代は、完全に終わりました。少子高齢化による労働人口の減少は不可逆的な事実であり、これからの経営において最も貴重なリソースは「カネ」でも「モノ」でもなく、「ヒト」の定着そのものになります。

これからの経営者に求められるのは、最新のITツールを導入すること以上に、社員の心を引き止め、組織へのエンゲージメントを高める「心理学的アプローチ」を身につけることです。なぜ人は去るのか、そしてどうすれば「ここで働き続けたい」と心から思わせることができるのか。その答えは、心理学に基づく「承認の技術」に隠されています。

参照:帝国データバンク「倒産集計 2026年 1月報
参照:Yahoo!ニュース「従業員「退職」で倒産、 2025年は124件 過去最多を大幅更新

■マズローが説く「心の栄養失調」と離職の真因

ここで、経営学でも頻繁に引用される「マズローの欲求5段階説」を思い出してください。人間は、生存に必要な「生理的欲求」や、身の安全を守る「安全の欲求」が満たされると、その上の段階にある「社会的欲求(集団への帰属)」と「承認欲求(他者から認められたい)」を強烈に求めるようになります。

職場において、承認欲求が満たされない状態は、いわば「心の栄養失調」です。どんなに高い給与という食事を与えられても、心が飢餓状態にあれば、社員は無意識のうちに自分の存在価値を認めてくれる「別の場所」を探し始めます。

逆に言えば、この「承認の欲求」を適切に満たすことができる組織は、多少の困難や条件の不利があっても、社員が結束し、踏みとどまる強さを持っています。そのための具体的な武器となるのが、これから紹介する2つの心理効果です。

■心理効果① 恩を返したくなる「返報性の原理」

まず経営者が知っておきたい心理メカニズムは、「返報性の原理(へんぽうせいのげんり)」です。

これは、人間が他人から施しを受けると、「お返しをしなければ」と感じる心理的負債感を抱く性質を指します。例えば、スーパーの試食コーナーでウィンナーを食べると、買わなければ悪い気がする心理です。

この強力な心理法則を、経営に応用する場合に勘違いしてはいけないのが、「金銭的な報酬」だけが「施し」ではないということです。

これからの時代、退職防止に最も効く「施し」とは、ボーナスや手当ではなく、経営者からの「日常的な関心のギブ」です。

社員にとって、経営者が自分を見てくれている、気にかけてくれていると感じることは、何よりの報酬です。

「昨日は遅くまで残ってくれていたね、ありがとう」
「その資料のここ、すごく工夫されていて見やすかったよ」
「最近、顔色が良さそうだけど何かいいことあった?」

経営者が意図的に、そして継続的にポジティブなフィードバック(承認)を与え続けると、社員の心の中には「この会社には恩がある」「社長にはよくしてもらっている」という「心理的な貯金」がたまっていきます。

この貯金が潤沢にある状態こそが、信頼関係です。

もし会社がピンチに陥ったとき、あるいは社員が他社から誘いを受けたとき、この返報性の原理が強力なブレーキとなります。「これだけ良くしてもらっている社長を裏切れない」「この会社のためなら、もう少し踏ん張ってみよう」。そう思わせる粘り強い定着力は、日々の小さな承認の積み重ねによってのみ、醸成されるのです。

■心理効果② 自分ならできると思える「自己効力感」

返報性の原理で「信頼」を築いたら、次に必要になるのが、社員の「行動」を後押しするエネルギーです。そこで重要になるのが、カナダの心理学者アルバート・バンデューラが提唱した「自己効力感(セルフ・エフィカシー)」です。

自己効力感とは、簡単に言えば「自分ならできる」「自分はこの仕事に向いている」という自信です。

なぜ、離職防止に自己効力感が必要なのでしょうか。
退職型倒産の現場では、往々にして社員が「疲弊」しています。しかし、疲弊の本当の原因は、「自分はこの会社で成長できているのか?」「自分の仕事は本当に役に立っているのか?」という「無力感」であることに注意が必要です。

バンデューラは、自己効力感を高める要因の一つとして「言葉による励まし(言語的説得)」を挙げています。「君ならできる」「君だから任せたい」というメッセージを送り続けることです。

特に効果的なのは、成功体験の「意味付け」です。
社員本人が「やって当たり前」だと思っているルーチンワークに対し、経営者が光を当てるのです。

「君が毎日正確に数字を合わせてくれるおかげで、我々は安心して経営判断ができるんだ。これはすごいことだよ」

このように、本人の行動が会社や顧客にとってどれほど価値があるかを言語化して伝えることで、社員の中に「自分は価値を生み出している」という確信が生まれます。

■今日から実践する「ポジティブ・フィードバック」の3原則

ここまで、退職を防ぐための「返報性の原理」と「自己効力感」について解説してきました。これらは理論ですが、現場で実践されなければ何の意味もありません。

では、明日から経営者はどう振る舞うべきか。今日からすぐに実践でき、かつ効果が高い「ポジティブ・フィードバック」の3つの具体的なアクションプランを提案します。

1. 「即時性」:鉄は熱いうちに打て

人を褒める、認める、感謝する。これらはすべて、その事象が起きた「直後」に行うのが最も効果的です。人間の脳は、行動と報酬(この場合は承認)の時間が近ければ近いほど、その行動を強化しようとします。

廊下ですれ違ったとき、日報を読んだ直後、会議が終わった瞬間。1ヶ月後の丁寧な表彰よりも、今、この瞬間の「お疲れ様、助かったよ」の一言のほうが、社員の脳に鮮烈に刻まれ、ドーパミンを放出させます。鮮度の高い承認を心がけてください。

2. 「非言語」の活用:言葉以上のメッセージ

ポジティブ・フィードバックは言葉だけでなく、非言語でのサインも重要です。

深くうなずくだけでも構いません。目が合った時にニコッと微笑むだけでもいいのです。「君のことを見ているよ」「今の動き、良かったよ」というサインを、非言語で発信する。作業の手を止めて相手の方を向く。これらはすべて、言葉以上に雄弁な「承認」であり、返報性の原理を刺激する強力なギフトになります。

3. 「プロセス」にスポットを当てる

売上目標の達成など、目に見える「結果」を褒めるのは簡単です。しかし、本当に社員の自己効力感を高めるのは、「結果に至るまでのプロセス」への承認です。

結果は、運や環境要因に左右されることがあります。しかし、工夫や努力といったプロセスは、本人の意志によるものです。

「契約が取れたのは素晴らしい。でもそれ以上に、君が事前にお客様の業界動向を徹底的に調べていた、あの準備こそが勝因だと思うよ」

このように、具体的な行動や姿勢を指摘されると、社員は「自分の努力をちゃんと見てくれていた」と感動し、次もまた同じように努力しようと思えます。プロセスへの承認は、再現性のある成果を生み出す源泉となるのです。

■倒産を防ぐのは「心のインフラ」

2026年以降、人手不足はますます加速していくでしょう。従業員退職型倒産を防ぐには、資金繰りに奔走するのと同じくらいの熱量で、社員の心にエネルギーを注ぐ必要があります。

経営とは、単に事業を回すことではありません。そこで働く人々の人生を預かり、彼らの自己重要感を満たす場を提供することでもあります。
返報性の原理で信頼という貯金をし、自己効力感を高めて社員の背中を押す。この「心のインフラ」を整えることこそが、どんな不況や人手不足にも負けない、真に強い組織を作る唯一の道です。

ポジティブ・フィードバックに、お金はかかりません。必要なのは、経営者の「社員に関心を持つ」という決意だけです。
あなたの今日の一言、今日のアクションが、一人の社員の「辞めたい」を「ここで働き続けたい」に変える。その小さな積み重ねが、貴社の未来を救う防波堤となるのです。

講師派遣・講演依頼の講演サーチに無料で問い合わせる

 

執筆講師

三上康一さんお写真三上康一(みかみ こういち)
三上 康一(みかみ こういち)

株式会社ロードサイド経営研究所代表取締役

  

講師派遣・講演依頼の講演サーチに無料で問い合わせる

絞り込み検索
フリーワード
性別
講演ジャンルから探す
受講者から探す
開催の目的から探す
電話相談はこちら(03-5787-6464) 無料相談・資料請求はこちら