面接前から始まる「おもてなし」戦略:応募者の心をつかむリマインド術【三上康一講師コラム】


面接前から始まる「おもてなし」戦略:応募者の心をつかむリマインド術【三上康一講師コラム】
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執筆講師

株式会社ロードサイド経営研究所代表取締役
人手不足が深刻化する現代、採用は企業の将来を左右する喫緊の課題となっています。多くの企業が優秀な人材獲得に躍起になる一方で、応募者の面接辞退、特に連絡なしのキャンセルに頭を抱えるケースも後を絶ちません。このことは、企業にとって時間とコストの大きな損失となるだけでなく、現場で懸命に働くスタッフの士気をも揺るがす深刻な問題です。
「人が増えれば業務が楽になる」という期待を抱きながらも、面接のキャンセルによってその希望が打ち砕かれれば、現場スタッフのモチベーション低下は避けられず、場合によっては離職にもつながりかねません。
では、こうした「面接の無断キャンセル」をどう防ぐべきか? その答えは、面接前から始まる“おもてなし”の心遣いにあります。ただのリマインド連絡ではなく、応募者一人ひとりに寄り添った細やかな配慮こそが、企業の魅力を伝え、面接への意欲を大きく引き上げるのです。
本稿では、先日大阪の石油商業組合様主催のセミナーでガソリンスタンド経営者の皆様からご好評をいただいた「面接前リマインド戦略」をさらに掘り下げて解説します。激化する採用競争のなかで、応募者の心をしっかりつかみ、面接の無断キャンセルを防ぐ強力な武器となるこの方法を、ぜひ貴社の採用活動にお役立てください。
■なぜ今、「おもてなし」リマインドが重要なのか?
現代の採用市場は、売り手市場の傾向が強く、応募者は複数の企業を比較検討しています。そのような状況下で重要になるのが、応募者に「この会社は自分を大切にしてくれる」と感じさせる「おもてなし」の心です。面接前日のリマインドは、この「おもてなし」を実践する絶好の機会となります。
例えば、ある飲食店では、面接前日に応募者へ電話をかけ、「明日の面接で飲み物を準備しますが、コーヒーかお茶、温かいものと冷たいものを用意できます。どちらがご希望ですか?」と尋ねることで、面接をすっぽかされてしまうケースをゼロにすることに成功しました。
なぜこのようなシンプルな行動が、大きな効果を生むのでしょうか? 応募者の視点に立つと、その理由が明確になります。面接に臨む際、誰もが大なり小なり緊張や不安を抱くものです。そんな中で、企業側が「飲み物の好み」という、非常に個人的な気遣いを見せてくれることは、応募者にとって「自分を気にかけてくれている」「快適な環境を提供しようとしてくれている」というメッセージとして受け取られます。これは、企業への好感度を飛躍的に高め、面接への意欲を向上させる強力な要因となるのです。

■「おもてなし」リマインドの核心:応募者の不安を解消し、期待感を高める
「おもてなし」リマインドの核心は、応募者が面接に抱く漠然とした不安を解消し、同時に企業への期待感を高めることにあります。飲み物の好みを確認する行為は、その具体的な表れです。
応募者にとっては、面接という未知の体験に対し、服装や持ち物、そして面接官がどんな人かといったさまざまな不安があります。そんな中で、企業側が「あなたが快適に過ごせるように配慮していますよ」という姿勢を示すことは、心理的な安心感を与えます。
この配慮が、応募者の心に「この企業は従業員を大切にする会社かもしれない」「ここで働けば、きっと心地よく仕事ができるだろう」というポジティブな印象を植え付けます。結果として、応募者の企業への関心や働く意欲が高まり、面接への約束を軽視することがなくなるのです。
企業側からの一歩踏み込んだ気遣いは、応募者にとって単なるリマインドを超えた「特別感」となり、他社との差別化にもつながります。
■電話で「おもてなし」リマインドを実践する具体的なステップ
では、具体的にどのようにして「おもてなし」リマインドを実践すれば良いのでしょうか? 最も効果的なのは、面接前日に電話で直接連絡を取ることです。
ステップ1:面接日時決定時に、前日連絡の意図を伝える
まず、面接日時を決定する際に、前日の連絡について応募者へ事前に伝えておくことが重要です。
具体的な伝え方例:
「では〇月〇日〇曜日の〇時から当社で面接ということでよろしいですね?面接前日に、念のため当社から確認のお電話を差し上げてもよろしいでしょうか?また、何かご不明な点があった場合、その際にお伺いできればと存じます。」
この一言を添えることで、知らない電話番号から着信があった場合に電話に出ない方でも、貴社からの電話には出やすくなります。また、企業が細やかな配慮をしてくれる会社である、という印象を面接前から与えることができます。
ステップ2:面接前日の電話で「おもてなし」を実践する
以下は、実際に面接前日に電話をかける際の会話例です。
電話での会話例:
「〇〇株式会社の〇〇です。明日〇月〇日〇曜日〇時からの面接、よろしくお願いします。明日の面接では、お飲み物をご用意したいのですが、コーヒーとお茶、温かいものと冷たいもの、どちらがよろしいでしょうか?」
(応募者の返答を受けたら)「承知いたしました。ではそちらをご用意いたします。ちなみに、当社までの道案内などで、何かご不明な点や不安な点はございませんか?」
(応募者の返答を受けたら)「では明日、よろしくお願いします。どうぞお気をつけてお越しください。」
このように、具体的な気遣い、そして不安の解消を意識した会話を心がけましょう。応募者は、電話越しに企業の温かさや丁寧さを感じ、面接へのモチベーションがさらに高まるはずです。

■電話に出ない場合の代替策:効果的なメールでの「おもてなし」リマインド
多忙な現代において、応募者が電話に出られないケースも十分に考えられます。そのような場合でも、「おもてなし」の心は忘れずに、面接日程を決める際にメールアドレスを確認し、前日にメールで代替のリマインドを送ることが重要です。
1. 件名の工夫:一目で意図が伝わるように
メールの件名は、数あるメールの中から応募者の目に留まるよう工夫が必要です。
件名例:
* 【〇〇株式会社】明日の面接についてのご連絡(お飲み物について)
* 【ご確認をお願いします】〇月〇日(〇)の面接に関するご連絡
* 【重要】〇〇株式会社より、明日の面接に関するお知らせ
2. 本文の内容:電話と同じ「おもてなし」の心で
電話で伝えるはずだった内容を、メールでも丁寧に盛り込みます。
本文例:
〇〇様
いつもお世話になっております。〇〇株式会社 採用担当の〇〇です。
本日、明日の面接についてお電話を差し上げたのですが、あいにくお電話がつながらなかったため、メールにて失礼いたします。
明日の面接では、〇〇様に少しでもリラックスして臨んでいただけるよう、お飲み物をご用意したいと考えております。つきましては、お手数ですが、コーヒーかお茶、温かいものと冷たいもので、どちらがご希望か、本メールにご返信いただけますでしょうか。
また、改めて明日の面接日時と場所、持ち物について念のためご確認させていただきます。
【面接概要】
日時:〇月〇日(〇)〇時〇分~
場所:〇〇株式会社 〇〇オフィス 〇〇ルーム
(アクセス:[地図のURLや簡単な道順を記載])
持ち物:履歴書、筆記用具、その他指定されたもの
もし、面接に関してご不明な点や、不安な点がございましたら、ご遠慮なく本メールにご返信いただくか、下記連絡先までお電話ください。
それでは、明日お目にかかれますことを楽しみにしております。どうぞお気をつけてお越しください。
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〇〇株式会社
採用担当 〇〇
電話番号:〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇
メール:〇〇@〇〇.co.jp
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メールであっても、電話で伝えるのと同様に、丁寧な言葉遣いと気遣いのメッセージを盛り込むことで、「おもてなし」の心が伝わります。また、面接概要を再確認させることで、応募者の不安を解消し、面接辞退のリスクをさらに低減できます。
■まとめ:小さな「おもてなし」が、未来の組織を作る
面接前のリマインドは、決して単なる事務連絡ではありません。それは、企業と応募者の最初の、そして最も重要な「おもてなし」の場であり、企業の顔となる機会です。
「飲み物の好み」を尋ねるという小さな気遣いが、応募者の心に温かい印象を与え、不安を和らげ、面接への意欲を高める。そしてその積み重ねが、面接辞退の防止、ひいては優秀な人材の獲得、企業イメージの向上、さらには従業員の定着率向上といった企業の未来を形作る大きな力となるのです。
人手不足が常態化する現代において、採用はもはや「選ぶ」側だけでなく、「選ばれる」側の視点が不可欠です。本記事でご紹介した「おもてなし」リマインドの戦略を実践し、貴社の採用活動がより一層成功し、魅力的な組織づくりにつながることを心より願っております。

執筆講師

株式会社ロードサイド経営研究所代表取締役