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離職率を下げる秘策!社員が「辞めない」会社になるための経営戦略

執筆講師

三上康一さんお写真三上康一(みかみ こういち)
三上康一(みかみこういち)

株式会社ロードサイド経営研究所代表取締役

「人がすぐに辞めてしまう」「せっかく育てても、また一からやり直し…」──この苦悩に、心当たりがある方は少なくないでしょう。求人広告に多額の費用をかけても、なかなか応募が集まらない。やっと採用できたと思っても、わずか数ヶ月で辞めてしまう。その度に、残された社員の負担は増し、組織の疲弊は加速していきます。

この負のスパイラルを断ち切るには、何が必要でしょうか?多くの方が「採用活動の強化」に目を向けがちですが、本当に解決すべき問題は「既存社員の退職」にあるかもしれません。人手不足の根本原因は、新しい人が入ってこないこと以上に、せっかく入社した大切な社員が辞めていくことではないでしょうか。

新たな人材を採用するコストや手間は膨大です。それよりも、今いる大切なスタッフに、「この会社で働き続けたい」と心から思ってもらい、長く活躍してもらうことこそが、最も効果的で持続可能な経営戦略と言えるでしょう。

今回は、スタッフの「定着率」を劇的に高めるための秘策、「教える機会を与えること」の重要性について、ある科学的な研究と、ガソリンスタンドでの実例を交えて、その驚くべき効果を徹底的に解説します。

■「教えることは学ぶことの最良の方法」を科学が証明

教育心理学の世界には、「学習者効果(Learning by Teaching)」という概念があります。これは、人に教えることを通じて、教える側自身の知識がより深く定着し、理解が深まるというものです。

教育学者の キース・トッピング(K.J. Topping) 氏は、同年代や同レベルの学習者同士が教え合う学習法である ピア・チュータリング(peer tutoring) の研究で世界的に知られています。トッピング氏は、ピア・チュータリングに関する多数の研究成果を統合的に分析するメタ分析を行い、この学習法が教える側・教わる側の双方に学業成績の向上という一貫したプラス効果をもたらすことを科学的に示しました。なお、メタ分析とは、特定の研究テーマについて行われた複数の独立した研究結果を統合し、統計的に分析する手法です。

トッピング氏の研究は、教育現場における協同学習や学習支援の理論的基盤として、広く引用されています。特に重要なのは、教える側(チューター)自身の学習効果が非常に高いという点です。人に教えるためには、あいまいだった知識を明確にし、論理的に整理する必要があります。このプロセスが、知識を定着させ、さらに深い理解へと導くのです。

■事例:大学生トレーナーが離職を食い止めた物語

この科学的な原理が、いかに現実のビジネスにおける人材定着に役立つか。かつて私が店長を担っていたガソリンスタンドでの事例をご紹介します。

このガソリンスタンドは、正社員3名、アルバイトスタッフ15名で運営していました。そのアルバイトスタッフの1人、A君は当時大学2年生でした。勤務歴もそれなりに長く、店頭業務は一通りこなすことができます。そこで私は彼に、新人スタッフのOJTトレーナーを任せることにしました。

OJTは「On-the-Job Training」の略で、日本語では「現任訓練」や「職場内訓練」と訳されます。これは、新入社員や未経験者に対して、実際の業務をこなしながら、職場の先輩や上司が直接指導を行う教育訓練の手法です。

A君がこのOJTトレーナーを担うことで、当初想定していなかった効果が表れました。

■知識の深化が、圧倒的な自信へと変わる

OJTトレーナーを依頼されたA君は、私とともにトレーナー用OJTマニュアルを作成し、それに基づき新人スタッフの教育に取り組みました。しかし、ある日、指導していた新人から「なぜエンジンオイル交換が必要なんですか?」という質問を受け、明確に答えることができませんでした。

自身の知識不足を痛感した彼は、私にその質問の答えを求め、エンジンオイルの機能、劣化の原因、劣化による影響などを知りました。この学びを通して、A君はエンジンオイル交換が、エンジンの寿命を延ばし、車の性能を維持するために不可欠であることを深く理解します。

その結果、A君はお客様に対して自信を持ってオイル交換を提案できるようになり、業績が飛躍的に向上しました。彼がOJTトレーナーを担った効果はそれだけではありませんでした。

■育成の喜びが、最高のエンゲージメントを生む

OJTトレーナーという新たな役割は、A君の働くことに対する価値観にも大きな変化をもたらしました。新人スタッフの成長を間近で見ることで、人を育て、彼らが成功するのをサポートする喜びを知ったのです。それは、それまでの単なる販売業務とは比べ物にならないほどの、大きなやりがいでした。

その後、A君は大学3年生となり就職活動の時期を迎えましたが、OJTトレーナーとしてのやりがいを知った経験から、待遇の良い他社ではなく、自分がアルバイトをしていたガソリンスタンドの運営会社への就職を決めます。

正社員となったA君の所属店舗はこれまでアルバイトをしていた店舗ではありませんでした。赴任先へと旅立ったA君がいなくなり、新たなトレーナーとしてアルバイトスタッフのB君が任命されました。B君は自分に教える役割が務まるのか不安を抱えていました。しかし、先輩であるA君が新人を育て、成果を上げている姿を間近で見て、自分も同じようにチームに貢献したいという思いもありました。

実際にOJTトレーナーとして新人教育に取り組む中で、B君は指導の難しさだけでなく、自分が教えることで新人が成長する喜びを体感しました。また、自分の知識やスキルが会社の成果につながることを実感し、会社への愛着と責任感が大きく高まりました。その結果、就職活動の際も待遇の良い他社ではなく、「自分が成長でき、貢献できるこの会社で働き続けたい」という気持ちで、当社への入社を決意したのです。

この事例は、教える機会が、若手社員のスキルアップだけでなく、内発的なモチベーションやキャリア形成にまで大きな影響を与え、結果として定着につながったことを証明しています。

■なぜ、「教える」ことが人材定着に不可欠なのか?

ガソリンスタンドの事例が示すように、「教える」という行為は、社員の会社へのエンゲージメント(愛着心)と定着率を劇的に高めます。その理由は以下のとおりです。

貢献意識と自己肯定感の向上

自分の知識や経験が、後輩の成長という形で目に見える成果になると、スタッフは「この会社で働くことに価値がある」と実感します。この貢献意識と自己肯定感の高まりは、離職率の低下に直結します。

リーダーシップと責任感の育成

若手や中堅社員にOJTトレーナーを任せることは、彼らにリーダーシップを発揮する機会を与え、責任感を育みます。これは、将来の幹部候補を育てることにもつながり、キャリアアップの明確な道筋を示します。

強固なチームワークの醸成

教えることと教わることを通じて、スタッフ同士のコミュニケーションが密になります。これにより、チーム内の連帯感が高まり、互いに助け合う風土が自然と醸成されます。スタッフが孤立することなく、居場所を見つけられる環境は、離職を防ぐうえで非常に重要です。

■まとめ:人手不足対策の本質は「既存社員を活かすこと」にあり

人手不足の中、新規スタッフの応募がなかなか集まらない現状を嘆く前に、一度立ち止まって考えてみましょう。その人手不足の原因は、新しい人が入らないことよりも、既存スタッフの退職にある場合がほとんどです。つまり、スタッフが辞めない職場づくりこそが、人手不足を根本から解消する鍵となります。

今回のガソリンスタンドの事例は、キース・トッピング氏の研究が示す「教えることで学ぶ」という科学的な効果が、ビジネスの現場でいかに大きな力を発揮するかを具体的に示しています。スタッフに「教える役割」を与えることは、単なる知識の補完にとどまりません。それは、本人の成長を促し、組織へのエンゲージメントを高め、結果として離職率を低下させる、最も効果的な経営戦略のひとつです。

「スタッフが辞めていくのは、給与や待遇が悪いからだ」と考える方もいるかもしれません。もちろん、それらも重要な要素です。しかし、スタッフが本当に求めるものは、「自分がこの会社に貢献できている」という実感や、「自分は成長できている」という手応えではないでしょうか。

これらの要素は、高額な設備投資や大規模な研修をせずとも、「教える機会」という小さな一歩から生まれます。

あなたの会社の未来を担う人材は、今、あなたの隣にいます。彼らに OJTトレーナーという役割を与え、新人スタッフの成長をサポートしてもらいましょう。その経験が、彼らの自信となり、会社への愛着となり、そして、あなたの会社を辞めない理由となるのです。

「教えること」は、あなたの会社を強くし、スタッフを成長させ、そして人手不足の悩みから解放してくれる、最強の武器といえるでしょう。

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執筆講師

三上康一さんお写真三上康一(みかみ こういち)
三上 康一(みかみ こういち)

株式会社ロードサイド経営研究所代表取締役

  

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