1. HOME
  2. お役立ち情報
  3. 講師特別コラム
  4. 三上康一氏【人材不足・人材育成】
  5. 部下が辞める理由は給料じゃない――働く意味を感じさせる上司の力【三上康一講師コラム】
講師特別コラム

あの講師の特別連載コラム

三上康一氏【人材不足・人材育成】

部下が辞める理由は給料じゃない――働く意味を感じさせる上司の力【三上康一講師コラム】

部下が辞める理由は給料じゃない――働く意味を感じさせる上司の力【三上康一講師コラム】
講師派遣・講演依頼の講演サーチに無料で問い合わせる

部下が辞める理由は給料じゃない、働く意味を感じさせる上司の力

執筆講師

三上康一さんお写真三上康一(みかみ こういち)
三上康一(みかみこういち)

株式会社ロードサイド経営研究所代表取締役

■はじめに:効率化が「働く夢」を奪う時代に

いま、多くの業界が「人手不足」という慢性的な課題に直面しています。求人を出しても応募が集まらず、ようやく採用できた人材も、数ヶ月で離職してしまう。現場のリーダーたちは「最近の若手は粘り強さがない」と嘆きますが、根性論では人は定着しません。かといって、待遇改善にも限界があります。

さらに、給与を上げ、福利厚生を整えても、状況は劇的には変わらない。むしろ、スキルの高い人ほど転職市場で引く手あまたになり、より良い条件を求めて次の職場へと移っていく――。

そんな現実が、いま多くの企業を悩ませています。このような状況が発生しているのはなぜなのでしょうか。その答えは、単純な「待遇の差」ではなく、「心の満足度」にあります。  

人は、どんなに忙しくても、どんなに厳しい環境でも、「自分は大切にされている」と感じられる場所では踏ん張れるものです。逆に、給料が良くても、「自分は替えのきく歯車だ」と感じた瞬間に、心は離れてしまいます。

いま、職場の多くで静かに進行しているのは、「働く夢の消失」です。それは派手な事件ではなく、毎日の小さなやり取りの中で少しずつ起こります。  

たとえば、  

・頑張って提出した提案書に「もう少し簡潔に」とだけコメントされる。  
・残業して対応した顧客対応に、感謝の言葉もなく「次はもっと早く」と指摘される。  
・上司に相談しても、「それは前にも言ったよね」で終わる――。  

その瞬間、部下の中で「自分の努力は誰にも届いていない」「この職場では成長できない」という小さな諦めが生まれます。それが積み重なった先にあるのが、離職です。人は給料のために入社しますが、“自分の価値を感じるために”入社した企業で働き続けるのです。 

そして、その「誇り」を育てるか、奪うか――実はそれを決めているのは、会社の制度でも給与体系でもありません。現場の、上司の日々の接し方なのです。

たった一言の声かけが、部下に「自分は信じられている」と思わせることもあれば、たった一つの対応が、「自分は信用されていない」と感じさせてしまうこともある。上司の態度ひとつで、部下の働く意欲も、会社への愛着も、大きく変わってしまうのです。

ここでは、そんな上司の接し方の違いが、部下の「働く夢」をどれほど左右するのかを、対照的な2人――A上司とB上司の姿を通して考えます。  

1人は「効率」と「正しさ」を優先する上司。  
もう1人は「人」と「感情」を最優先にする上司。  

この2人のマネジメントスタイルの違いが、部下の成長・チームの雰囲気・離職率にどんな影響を与えるのか。そこに、人手不足時代を生き抜く企業の“定着戦略の本質”が隠れています。

■A上司型マネジメント:効率を重視しすぎた結果、部下の夢が消える

A上司は、組織運営において「効率」「数字」「管理」を最優先するタイプです。業務フローの改善やタスク管理の仕組みには長けており、上層部からの信頼も厚い。一見、理想的なマネージャーに見えます。

しかし、その完璧な管理体制の裏では、部下の心が少しずつ離れていっています。たとえば、部下が「最近、仕事の方向性に悩んでいて……」と相談してきたとき。A上司はこう答えます。

「その話はまた今度にして。まずは今週の目標をクリアしてから考えよう。」

確かに正論です。 しかし、部下が求めていたのは「助言」よりも「共感」。「あなたの気持ちを分かっているよ」という一言が欲しかったのです。

A上司のチームでは、次第に次のような空気が漂い始めます。

・自分の意見を言っても意味がない
・成果を出さないと認めてもらえない 
・ミスをすると評価が下がるだけ 

その結果、部下は自分の仕事に「意義」や「成長の実感」を見失い、やがては転職を考えるようになります。A上司型の職場では、人が“辞める”のではなく、“心が離れる”のです

■B上司型マネジメント:「誇り」を与え、夢を育てるリーダー

一方、B上司は効率よりも「人の成長」に重きを置きます。もちろん業績も大切にしますが、その基盤にあるのは「信頼関係」です。

ある日、部下がクレーム対応で落ち込んでいました。B上司はミーティングの準備を一旦止めて、そっと声をかけます。

「あの件、どう感じた? 一番つらかったのはどこ?」  

部下が話し終えたあと、B上司は静かにこう言いました。

「あの対応、私は良かったと思う。お客様の立場をちゃんと考えていたから。 次は、その優しさを活かしてもっと良い対応を一緒に考えよう。」  

この言葉で、部下は自分が責められていないことを知り、救われた気持ちになります。「この人のもとで頑張りたい」と思う瞬間です。

B上司のマネジメントは、“信じて伸ばす”ことに徹しています。部下がミスをしても、「失敗を共有できる安全な環境」がある。 それが、挑戦意欲と誇りを生むのです。

B上司のチームは、会話が多く、笑顔が絶えません。数字の報告だけでなく、「どんな努力をしたか」「どんな成長を感じたか」といった話が自然に交わされます。結果として、定着率が高く、チーム全体の成果も上がっていくのです。

 ■A上司からB上司へ変わるための3つの実践

では、どうすればA上司型からB上司型へと変わることができるのでしょうか。  

その鍵となる3つの行動をご紹介します。

1.「非効率な傾聴」の時間を持つ

上司は忙しいものです。しかし、部下の心をつなぐのは「時間」ではなく「姿勢」です。たとえ5分でも、パソコンの手を止めて真正面から話を聞く。  

それだけで、部下は「自分の話を聞くために時間を使ってくれた」と感じます。この“非効率な傾聴”こそが、信頼関係を築く最も効率的な方法です。

2.「個の物語」で評価する

人は、数字やスコアではなく、「努力のプロセス」を認められたときに誇りを持ちます。B上司は、部下にこう伝えます。

「あの結果の裏に、どんな工夫があったの?」  
「あの時の判断、勇気がいったと思うよ。」  

こうした言葉は、単なる承認ではなく、“その人らしさ”を認めるメッセージです。評価の軸を「結果」から「物語」へ変えるだけで、チームの空気は劇的に変わります。

3.「仕事の意味」を語る

A上司は、「なぜこの仕事をやるのか」を省略しがちです。一方、B上司は常に「この仕事は誰を幸せにするのか」「なぜあなたがこの役割に向いているのか」を語ります。この“仕事の物語”が、部下の夢と会社の目的をつなぐ接着剤になります。

■おわりに:定着率とは「夢の実現度」である

いま、多くの企業が「どうすれば人が辞めない組織をつくれるのか」を模索しています。しかし、定着率の向上とは、単に「人材を確保する」ためのテクニックではありません。

それは、1人ひとりの従業員が、この会社で“自分の夢を実現できる”と感じられるかどうか――その実感の度合いこそが、真の定着率なのです。

A上司型のマネジメントは、効率と管理を重視します。

ミスを防ぎ、成果を安定させ、全体最適を図る。一見すると組織運営の理想に思えますが、その裏で静かに失われているものがあります。それは、部下の「自分は信頼されている」という実感です。効率化の名のもとに、裁量や挑戦の機会を奪われた部下は、次第に“自分で考える力”よりも“言われたことをこなす習慣”に慣れてしまいます。やがて、誇りも情熱も削がれ、「この会社で成長する未来」を想像できなくなるのです。

一方、B上司型のマネジメントは、非効率に見える「人への投資」を惜しみません。1人ひとりの成長速度に合わせて言葉を選び、悩みに耳を傾け、成果だけでなく努力の過程を評価する。その姿勢は、「あなたはここで価値を発揮できる存在だ」というメッセージを、日々の行動で伝えています。部下はその温度を敏感に感じ取り、次第に「この人のために頑張りたい」「このチームで結果を出したい」と思うようになります。この“感情のつながり”が、制度や給与では生み出せない定着力の源になるのです。

どんなに素晴らしい経営戦略や人事制度を整えても、現場の上司が部下の心を掴めなければ、組織は人を失い続けます。逆に、1人のB上司がいるだけで、職場の空気が変わり、チームの信頼関係が再生し、業績までもが動き出します。人が辞めない組織とは、「仕組みで縛る」組織ではなく、「関係でつながる」組織なのです。

人手不足の本質は、「人の手」の不足ではなく、「働く意味を感じさせる上司」の不足です。人は、給与や条件だけでは長くは働けません。自分の仕事に意味を感じ、信頼できる上司のもとでこそ力を発揮します。つまり、“採用力”よりも“育成力”が問われる時代なのです。

あなたの会社には、A上司とB上司、どちらが多いでしょうか。そして、あなた自身はどちらの上司でありたいですか。

今日、部下にかけるその一言が――
誰かの「働く夢」を壊すか、それとも育てるか。
その選択が、あなたのチームと会社の明日を決めていきます。

講師派遣・講演依頼の講演サーチに無料で問い合わせる

 

執筆講師

三上康一さんお写真三上康一(みかみ こういち)
三上 康一(みかみ こういち)

株式会社ロードサイド経営研究所代表取締役

  

講師派遣・講演依頼の講演サーチに無料で問い合わせる

絞り込み検索
フリーワード
性別
講演ジャンルから探す
受講者から探す
開催の目的から探す
電話相談はこちら(03-5787-6464) 無料相談・資料請求はこちら