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三上康一氏【人材不足・人材育成】

顧客満足と従業員のエンゲージメントを高める「良質な接点」の力:ソフトな人手不足対策としてのホスピタリティ【三上康一講師コラム】

顧客満足と従業員のエンゲージメントを高める「良質な接点」の力:ソフトな人手不足対策としてのホスピタリティ
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ソフトな人手不足対策としてのホスピタリティ

執筆講師

三上康一さんお写真三上康一(みかみ こういち)
三上康一(みかみこういち)

株式会社ロードサイド経営研究所代表取締役

■はじめに:経営を脅かす人手不足と、効率化だけでは得られない「競争優位性」

現在、日本の中小企業が直面している最大の課題、それは間違いなく「人手不足」です。製造業、サービス業、小売業、専門職など、あらゆる業種において人手不足が深刻な問題となっています。スタッフが不足すれば、サービスの質が低下し、納期が遅れ、既存の従業員には過重な負担がかかり、疲弊してしまいます。結果として、企業全体の持続可能性が脅かされ、最終的には経営危機につながりかねません。

多くの経営者はこの問題に対して、業務の効率化やAI導入、デジタル化などの「省人化」を進めています。これらの施策は確かに短期的なコスト削減を実現するかもしれませんが、根本的な組織の問題に対する解決策にはなりません。

果たして本当に進むべき道は「人の排除」だけでしょうか?  効率化や自動化の進行によって、ヒューマンタッチなサービスが失われるのは避けるべきです。顧客との良質な接点は、従業員にとっての「仕事の価値」や「誇り」を高め、最終的には組織を内側から強化する、「ソフトな人手不足対策」となり得るのです。それでは、どのようにして人手不足を解消し、企業の競争優位性を維持し続けることができるのでしょうか?

当記事では、人手不足という課題に対する新しいアプローチとして、「顧客との良質な接点を意図的に増やす」ことを提案します。このアプローチは、単なる売上向上を目指すものではありません。顧客満足を実感できる機会を提供することにより、従業員のモチベーション向上や離職率の低下に直結することが理論的・実証的に明らかになっています。

以下では、「良質な接点」の戦略的な価値を探り、顧客と従業員のエンゲージメントがどのように連鎖するかを解説します。また、顧客密着型のサービスがいかに人材定着やリスク回避に繋がるかを紹介し、規模を問わずすべての企業経営者に対して、人手不足を成長の機会に変えるための新たな経営戦略を提示します。

■事例:良質な接点を生む柔軟なホスピタリティの力

先日、筆者が訪れたある回転寿司店での体験は、「良質な接点」の戦略的価値を象徴する2つの側面を持っていました。

1.柔軟な対応による「感動体験」の創出

同店ではメニューにない「お刺身の盛り合わせ」を顧客の好みに合わせて作るという柔軟な個別対応を提供していました。このマニュアルを超えたホスピタリティこそが、従業員に裁量権と誇りを与え、「良質な接点」を意図的に生み出す企業文化の象徴といえます。顧客の期待を超えるサービスは、強い満足感と「ありがとう」という感謝の言葉を生み出します。

2. 手渡しスタイルによる「リスク回避」と「安心感」の提供

さらに特筆すべきは、同店が料理をレーンに乗せず、スタッフがお客様に手渡ししていた点です。これは一見非効率ですが、以下の理由によって実は「安心・安全」という付加価値を生み出し、長期的な人手不足対策につながります

・物理的リスクの排除: 商品が従業員の監視下にあり、レーン上のいたずらやトラブルを物理的に不可能にします。これは、監視カメラ以上の究極的なセキュリティ機能となります。
・顧客の安心感:「誰も触れていない、新鮮なものが提供された」という安心感は顧客ロイヤルティを高め、企業のブランド価値を守ります。

手渡しは、短期的効率を犠牲にしても、長期的な「人材定着」と「ブランド価値の安定」を守るという、戦略的な「顧客接点」なのです。

■SPC理論:顧客と従業員のエンゲージメント連鎖

サービス・プロフィット・チェーン(SPC:Service-Profit Chain)理論は、ハーバード・ビジネス・スクールの学者たちによって提唱された理論で、従業員満足度(エンゲージメント)と顧客満足度の間に強い相関関係があることを実証しています。この理論の核心は、従業員が「やりがいを持って仕事に取り組む」ことで、質の高いサービスが提供され、その結果として顧客の満足度が向上するという因果関係にあります。以下で当理論の構造と流れを述べていきます。

1.従業員満足度(従業員のエンゲージメント)

サービス・プロフィット・チェーンのスタートポイントは、従業員の満足度です。従業員が自分の仕事に誇りを持ち、モチベーションを感じて働いていると、エンゲージメントが高くなります。これは、会社のビジョンや価値観に共感し、自己効力感を感じることができる状態です。従業員がやりがいを感じると、その労働意欲は高まり、仕事に対する情熱や創造性が自然に生まれます。

2. サービスの質の向上

次に、従業員が満足していることが顧客サービスに反映されます。従業員が自分の仕事に満足し、高いモチベーションを持って業務に取り組むことで、顧客に対してより高い質のサービスを提供できるようになります。サービス業においては、従業員の対応、問題解決能力、顧客への気配りが非常に重要であり、満足した従業員はそのすべてにおいてポジティブな姿勢を持ち、顧客とのやりとりにおいて、良好な関係を築きやすくなります。

3. 顧客満足度の向上

従業員が提供するサービスの質が向上することで、顧客満足度が高まります。顧客はサービスの質が良いと感じると、再度その店を利用したい、他人にも勧めたいと思うようになります。特に、顧客が「期待を超えた体験」をした場合、顧客満足度は大きく向上します。このようなサービスが提供されると、顧客は感謝の気持ちを表現し、「ありがとう」という言葉やポジティブなフィードバックを従業員に直接伝えることがよくあります。

4. 顧客満足が従業員のやりがいへ還元される

顧客から感謝される経験は、従業員にとって非常に有益なフィードバックです。顧客の満足度が従業員のやりがいを高め、仕事に対する誇りや価値を再確認させるきっかけとなります。この結果、従業員はさらなるモチベーションを持って業務に取り組むようになり、その良い効果が再びサービスの質の向上に繋がり、最終的に顧客満足度がさらに高まるという「好循環」が生まれるのです。

■示唆:良質な接点が「ソフトな人手不足対策」となる

企業は、自動化で作業負荷を減らす一方で、人が介在するからこそ得られる「感動体験」の機会を従業員に与えることが、長期的な人材確保戦略において不可欠な要素となります。顧客との良質な接点を意図的に増やすことは、従業員のモチベーション向上や離職率低下に直結する「ソフトな人手不足対策」として非常に有効です。従業員が自分の仕事に意味を感じ、顧客満足を実感することで、次のような効果が期待できます。

・従業員のモチベーション向上:顧客から感謝される機会が増えることで、従業員は自分の仕事に誇りを持ち、仕事の質が向上します。これにより、仕事に対する満足度やエンゲージメントが高まります。
・離職率の低下:従業員がやりがいを感じ、企業の文化や仕事に対する誇りを持っている場合、その企業で働き続けたいという意欲が高まります。これにより、離職率が低下し、人手不足の解消に貢献することができます。
・労働力の確保:「良質な接点」を増やすための企業文化が根付いた店舗は、採用面でも有利です。従業員にとって働きやすい環境が整っている企業は、優秀な人材を引き付けることができ、結果として人手不足の解消に繋がります。

■まとめ:顧客との「良質な接点」が導く、持続可能な人手不足対策

日本の中小企業が直面している人手不足問題に対して、多くの経営者がデジタル化や効率化を進めています。しかし、それだけでは根本的な解決にはならず、むしろヒューマンタッチの喪失が顧客ロイヤルティの低下を招きかねません。そのため、従業員と顧客の双方に対するエンゲージメントを高める戦略が必要です。

この記事で提案した「顧客との良質な接点を増やすこと」というアプローチは、単なる顧客満足度向上に留まらず、従業員のモチベーション向上や離職率低下に直結するソフトな人手不足対策として機能します。顧客との温かい接点を通じて従業員が自分の仕事に誇りを持ち、仕事に対する価値を実感できることが、組織全体の強化につながります。

さらに、顧客満足度の向上が従業員のやりがいを高め、従業員の満足がまたサービスの質向上を促す、というサービス・プロフィット・チェーンの理論が示す通り、このポジティブなフィードバックの連鎖こそが、持続可能な人手不足対策を実現するカギとなります。

結局のところ、効率化や自動化の進展とともに、人間らしい温かみを提供できる環境を作り出すことが、人手不足を成長のチャンスに変える最も効果的な戦略と言えるでしょう。顧客との良質な接点を増やすことで、企業は人材確保や定着率向上、さらには競争優位性の強化を実現できるのです。

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三上 康一(みかみ こういち)

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