1. HOME
  2. お役立ち情報
  3. 講師特別コラム
  4. 三上康一氏【人材不足・人材育成】
  5. 人手不足の盲点:「職場を去る理由」は給与より上司の「指摘」にある【三上康一講師コラム】
講師特別コラム

あの講師の特別連載コラム

三上康一氏【人材不足・人材育成】

人手不足の盲点:「職場を去る理由」は給与より上司の「指摘」にある【三上康一講師コラム】

人手不足の盲点:「職場を去る理由」は給与より上司の「指摘」にある
講師派遣・講演依頼の講演サーチに無料で問い合わせる

「職場を去る理由」は給与より上司の「指摘」

執筆講師

三上康一さんお写真三上康一(みかみ こういち)
三上康一(みかみこういち)

株式会社ロードサイド経営研究所代表取締役

■中小企業診断士の洞察:業績不振の経営者と離職に悩む職場の共通点

近年、企業における人手不足は深刻化し、とくに中小企業では、業務過多による長時間労働の常態化が避けられない課題となっています。しかし、この問題の根本原因は、単なる求人市場の需給バランスだけではありません。実は、職場内の上司と部下の「関係性」が、離職率を決定づける大きな要因となっているのです。

私は、中小企業診断士として17年間にわたり数多くの企業の支援に携わる中で、業績が伸び悩む経営者に共通する特徴があることに気付きました。それは「時間にルーズ」「諦めが早い」「できない理由を探してしまう」です。しかし、支援者としてその点を一方的に指摘したところで、企業経営が上手くいくわけではありません。企業支援の第一歩は、経営者がなぜそのような特徴を持つに至ったのかを私に打ち明けられる「信頼関係」を築くことにあります。

このコンサルティングの原則は、そのままマネジメントに適用できます。部下が定着せず、転職や退職を選ぶ背景には、上司が部下の問題点を一方的に指摘し、改善を要求するだけの「指導」が大きく関わっています。部下は「評価」ではなく「成長への支援」を求めています。指摘するだけの上司の元から部下が去っていくのは、彼らが成長を実感できず、組織への帰属意識を失ってしまうからです。

■【心理学的根拠】「指摘」が破壊し、「関係性」が育むもの

心理学的な研究は、部下の定着には「信頼関係」の構築が不可欠であり、上司の姿勢が直接的に影響を与えることを明確に示しています。

1. 離職率を低下させる「心理的安全性」の確保

心理学者エイミー・エドモンドソンが提唱した「心理的安全性(Psychological Safety)」は、部下が自由に意見を言ったり、失敗を恐れずに挑戦したりできる環境が、チームや組織のパフォーマンスにおいて極めて重要だということを示しています。心理的安全性が高い職場では、部下はミスを恐れず、自己表現ができ、創造的で積極的な行動を取ることができます。

ミスを指摘するだけの上司のもとでは部下が萎縮し、挑戦を避け、結果として職場に対する帰属感が低下し、退職率が高くなります。エドモンドソンの研究では、失敗を咎めるのではなく、学びとして捉え、成長をサポートする姿勢が、部下のモチベーションを高める鍵となります。

2.部下のモチベーションを高める「自己決定理論」

心理学者デシとライアンによる「自己決定理論(Self-Determination Theory/SDT)」は、人間の行動は「自律性」「有能感」「関係性」の3つの基本的な心理的ニーズによって動機づけられると提唱しています。部下が職場で長期的に働き続けるには、これらの要素が満たされる必要があります。

・自律性: 自分の判断で仕事を進める自由度があること。
・有能感: 仕事の成果を実感し、自分の能力に自信を持てること。
・関係性: 上司や同僚との信頼関係が強いこと。

特に「関係性」の部分は、上司との信頼関係がしっかりしていると、部下は自分の存在を大切にされていると感じ、結果として長期的に組織に留まる意欲が高まります。

3. 「問題点を指摘するだけ」の関わり方が心理的に有害な理由

上司が部下の問題点を指摘するだけの関わり方をすると、部下は防衛的になり、自己肯定感を低下させることが心理学的に示されています。

無条件の肯定的関心(カール・ロジャーズ): 部下が自分の存在を無条件に受け入れてもらっていると感じることが、自己成長を促すために不可欠です。常に欠点やミスを指摘されると、部下は自分に対する評価が否定的だと感じ、自信を失い、挑戦する意欲を失います。

「固定マインドセット」を植え付ける危険性(キャロル・ドゥエック): 常に欠点を指摘されると、「自分はこれ以上成長できない」という固定マインドセットに陥りやすくなります。逆に上司が「できない理由」を探すのではなく、「どうすればできるようになるか?」に焦点を当て、成長をサポートするフィードバックを提供することが、成長マインドセットを育み、定着率を向上させます。

■部下との信頼関係を築き定着率を高める3つの実践アプローチ

部下との信頼関係を築き、心理的安全性を高めるために、上司が意識的に行うべき心理学的アプローチを3点ご紹介します。

1.積極的傾聴と共感による「関係性」の担保

部下の話をじっくり聞き、その上で共感的な反応を示すことが、信頼関係を深める基本です。心理学では、共感的な聴き方が部下の自己開示を促し、「関係性」のニーズを満たし、問題解決につながるとされています。これは、診断士が経営者の背景を打ち明けられる関係性を築く姿勢と同じです。

2.フィードフォワード:未来志向の成長サポート

過去の行動を評価する「フィードバック」に留まらず、未来に向けた提案を行う「フィードフォワード」を取り入れましょう。この未来志向のアプローチは、部下が自分の成長を実感できる点で非常に効果的です。心理学的には、未来に焦点を当てることで部下は次回の行動に対して前向きに捉えることができ、「有能感」の向上に繋がります。

3. 認知バイアスを排した「公平な評価」

部下に対する評価やフィードバックの際に、認知バイアス(例:ハロー効果、自己奉仕バイアスなど)に影響されないようにすることも重要です。偏った評価は部下の信頼感を損なう最も大きな原因となります。部下の行動を公平かつ客観的に評価し、「自律性」を尊重することが、強固な信頼関係を築くために不可欠です。

■結論:心理学的リーダーシップが人手不足を解決する

人手不足が常態化する現代において、企業が外部に人材を求め続けるのは、もはや持続可能な戦略ではありません。17年に及ぶ中小企業診断士の経験が示すように、問題の核心は常に「関係性の質」にあります。業績不振の経営者に単に問題点を指摘しても事態が変わらないように、上司が部下のミスや欠点を一方的に指摘する「ジャッジ」の役割を続ける限り、部下は必ず組織から離れていきます

部下の定着率を向上させる鍵は、上司がその役割を、共感と成長を支える「支援者」へと根本的に転換することにあります。この転換は、単なるソフトスキルの向上ではなく、組織の未来を創るための最も重要な経営戦略なのです。そのポイントを以下にまとめます。

1.「心理的安全性」が組織を自走させる

上司が「支援者」となることで、職場には「心理的安全性」という最強の基盤が築かれます。上司が失敗を咎めず、学びとして捉える姿勢を示すことで、部下はミスを隠蔽せず、積極的に自己開示を行うようになります。これにより、問題の芽を早期に摘むことができ、組織全体のレジリエンス(回復力)が高まります。

2.自律的な成長の促進

部下の「自律性」「有能感」「関係性」という基本的な心理的ニーズが満たされることで、部下は「やらされ感」ではなく、「自分で選択している」という内発的な動機で行動します。フィードフォワードのような未来志向のアプローチは、部下の成長マインドセットを育み、組織は上司の指示を待たない「自走するチーム」へと進化します。これは、人手不足で業務負荷が高い中小企業にとって、生産性を維持・向上させる唯一の道です。

3.「エンゲージメント」というブランド力

指摘型のマネジメントが部下の自己肯定感を低下させ、組織への不信感を生むのに対し、「支援型リーダーシップ」は、部下との間に強い「エンゲージメント(愛着と貢献意欲)」を築きます。エンゲージメントが高まった部下は、自分の仕事が組織の成果に繋がっていると実感し、高い忠誠心を持って貢献します。この高いエンゲージメントは、組織文化として定着し、外部の人材市場において「社員を大切にする働きがいのある職場」という強力なブランド力となって機能します。結果として、新たな採用コストをかけることなく、優秀な人材を引き寄せる磁力となるのです。

最後に:今日から「指摘」を「問いかけ」に

人手不足の時代を生き抜くためには、部下の「できない理由」を指摘する過去志向のマネジメントを即座に手放し、「どうすればできるか?」を共に探る未来志向のリーダーシップへと転換しなければなりません。

上司が自らの役割を「心理学的支援者」へと転換する覚悟を持つこと。今日からあなたの職場で、部下との対話の主語を「君は」から「私たちは」に変え、信頼関係という最強の絆を築き直すこと。これこそが、目の前の人手不足という課題を乗り越え、組織の未来を盤石にする、最も有効かつ持続可能な経営戦略となるのです。

講師派遣・講演依頼の講演サーチに無料で問い合わせる

 

執筆講師

三上康一さんお写真三上康一(みかみ こういち)
三上 康一(みかみ こういち)

株式会社ロードサイド経営研究所代表取締役

  

講師派遣・講演依頼の講演サーチに無料で問い合わせる

絞り込み検索
フリーワード
性別
講演ジャンルから探す
受講者から探す
開催の目的から探す
電話相談はこちら(03-5787-6464) 無料相談・資料請求はこちら