中小企業が採用で失敗しないための「相性」重視の選考術-「誰でも採る」は多様性も組織も壊す?【三上康一講師コラム】


中小企業が採用で失敗しないための「相性」重視の選考術
目次
執筆講師

株式会社ロードサイド経営研究所代表取締役
■深刻化する人手不足倒産と「安易な採用」の罠
株式会社東京商工リサーチの調査によると、2025年1月から10月までの「人手不足」関連倒産は323件に達し、調査を開始した2013年以降、年間で初めて300件を超えるという、極めて深刻な状況になりました。特に資本金1,000万円未満の小規模事業者がその6割超(202件)を占めており、経営体力の脆弱な企業ほど、この傾向が顕著であることを示しています。
このような状況下で、「人手が足りないから誰でも採用しよう」という判断は、一見、多様な人材を積極的に受け入れているように見えますが、実はここに、「多様性のパラドックス」と「寛容のパラドックス」という組織を内部から蝕む二つの哲学的矛盾が潜んでいます。
参照:東京商工リサーチ「1-10月の「人手不足」倒産323件、年間最多を更新 労働集約型で倒産が急増、「従業員退職」が1.5倍増」
●多様性のパラドックス
組織が多様性を大事にしすぎると、「多様性を尊重しないという多様性」までも受け入れなければならなくなり、結果として矛盾が生じる現象です。言い換えれば、みんな違っていいはずなのに、それを認めない考え方も受け入れざるを得ない、ということです。
●寛容のパラドックス
組織が「誰でも受け入れよう」と寛容さを重視しすぎると、組織のルールや文化を壊すような態度をとる人材まで寛容に受け入れざるを得ません。その結果、本来守りたかった寛容さや働きやすい環境が壊れてしまいます。言い換えると、「何でも受け入れすぎると、受け入れる力そのものが失われる」ということです。
つまり、自社の組織文化を尊重しない価値観まで受け入れてしまうと、職場の雰囲気やルールが壊れ、既存社員がストレスを抱えるという事態が起こります。よって、人手不足のときこそ、「誰でも採る」という一見寛容な判断に疑義を抱く必要があります。

■早期退職がもたらす深刻な影響
新しい従業員を採用すると、既存社員は「これで業務負担が軽くなる」と期待します。 しかし、その人材が早期に退職してしまうと、期待が裏切られ、モチベーションは大きく低下します。
この状態が繰り返されると、
●既存社員も辞め始める
●採用に使った費用・教育の手間が無駄になる
●業務負担が増え、さらに人が来なくなる
と悪循環に陥り、職場の文化も多様性も維持できなくなってしまいます。
早期退職の大きな要因は組織の文化とその人材の価値観の相違です。大企業であれば「相性が合わなければ配置換え」という対応ができます。しかし小規模企業では配置換えが難しく、採用段階での相性の見極めが定着率を大きく左右します。
では、どのようにして相性を見極めるべきなのでしょうか。
■相性を判断する「価値観の5軸」
応募者との相性を客観的に把握するために役立つのが、次の5つの価値観軸です。これは、早期退職者の傾向分析から導かれたものです。
1. 理屈を重視するか/情を重視するか
最終判断を論理に置くか、気持ちに置くか。
2. 競争を重視するか/協調を重視するか
成果を優先するか、チームの調和を優先するか。
3. 行動を重視するか/思考を重視するか
まず動くタイプか、計画や確認を重視するタイプか。
4. 革新を重視するか/伝統を重視するか
新しい手法を試すか、現行のやり方を守るか。
5. スピードを重視するか/緻密さを重視するか
とにかく早さを重んじるか、正確さを優先するか。
これらは優劣ではなく、自社の文化と合うかどうかを判断する基準です。
■相性が合わない例
たとえば自社が 「理屈・協調・行動・革新・スピード」を重視する文化だったとします。
一方で応募者が 「情・競争・思考・伝統・緻密」を重視している場合、日々の判断・働き方・コミュニケーションでズレが生じ、ストレスが溜まりやすくなります。
これは応募者が悪いわけでも、価値観が間違っているわけでもありません。「その人が活躍できる場が、たまたま自社ではない」というだけです。
多様性を大切にするからこそ、無理にマッチしない組み合わせを作るべきではありません。では、採用面接の場でこの相性を見極めるための質問例を見ていきます。

■5軸を見極める質問例
1. 理屈 or 情
質問例:「返済が不透明な借金を友人から頼まれた場合、あなたはどう判断しますか?」
【理屈重視の回答例】
「現状の貯蓄では足りず、返済計画も不明なため、今回は断ります。」など、論理や客観性を優先する。
【情重視の回答例】
「足りない分はキャッシングしてでも貸します。親友を見捨てられません。」など、人間関係や感情的なつながりを優先する。
2. 競争 or 協調
質問例:「学生時代に印象に残っている出来事は何ですか?」
【競争重視の回答例】
「大会で優勝した」「個人成績でトップを取った」「ライバルに勝った」など、個人目標や勝敗に言及する。
【協調重視の回答例】
「チームで意見を出し合った過程」「仲間と協力して課題を乗り越えた経験」など、チームワークや過程に言及する。
3. 行動 or 思考
質問例:「業務で予定外の依頼を受けた場合、まず対応しますか、それとも一度確認しますか?」
【行動重視の回答例】
「簡単な作業なら、上司に断りを入れる前にまず実行してしまいます。」など、フットワークの軽さや即時性を優先する。
【思考重視の回答例】
「ルール違反やリスクを避けるため、一旦立ち止まり、上司やマニュアルで確認してから行動します。」など、計画性やリスク回避を優先する。
4. 革新 or 伝統
質問例:「弊社が現在使っている看板のデザインを自由に変えられるとしたら、どんな案にしますか?」
【革新重視の回答例】
「現在のデザインとは全く違う、最先端の技術を使ったものにする」など、変化や新しい挑戦に強い意欲を示す。
【伝統重視の傾向】
「現在のデザインを踏襲しつつ、色を少し変えるなど、既存のイメージを大切にする」といった安定性や過去の実績を重視する。
5. スピード or 緻密さ
質問例:「料理を作っていたとして、食事の時間に間に合わない可能性が出てきた場合、急いで仕上げますか? それとも時間をかけますか?」
【スピード重視の回答例】
「多少不完全でも、時間を守ることを優先して急いで仕上げます。」など、納期や迅速性を優先する。
【緻密さ重視の回答例】
「少し待ってもらい、自分が納得のいく完璧な料理を完成させます。」など、品質や正確性を優先する。
■相性重視こそ、多様性と組織を守る唯一の戦略
相性を基準にした採用は、人を排除するための仕組みではなく、組織文化と多様性を守るための最も実践的な経営戦略です。人手不足のなかで「誰でも採る」という判断は、一時的には穴埋めになっても、長い目で見れば文化の崩壊や離職の連鎖を招きます。
だからこそ中小企業は、まず自社の核となる価値観を明確にし、「相性の5軸」を通して、その文化の上で力を発揮できる人を選ぶ必要があります。これは不寛容のための線引きではなく、既存社員が安心して働ける環境と、生産性の高い多様性を維持するための防御策です。
“誰を迎えれば、組織は持続的に成長し、社員が幸せに働けるか”。
この問いに正面から向き合い、合わない人を戦略的に不採用とする判断こそ、人手不足時代を生き抜く企業にとって、最も重要な経営の意思決定といえるでしょう。

執筆講師

株式会社ロードサイド経営研究所代表取締役




