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三上康一氏【人材不足・人材育成】

人手不足倒産を回避する認知の変革:無意識の思い込みを排し、選ばれる職場にするために【三上康一講師コラム】

人手不足倒産を回避する認知の変革
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人手不足倒産を回避する認知の変革

執筆講師

三上康一さんお写真三上康一(みかみ こういち)
三上康一(みかみこういち)

株式会社ロードサイド経営研究所代表取締役

1. 序論:労働市場の激変と職場として選ばれないリスクの顕在化

「仕事はある、技術もある、顧客もいる。それなのに、会社が消える――。」

今、日本の中小企業を襲っているのは、従来の販売不振による資金繰り破綻ではなく、働く人を確保できずに経営が立ち行かなくなる人手不足関連倒産という新たな脅威です。2025年版中小企業白書によれば、2024年の人手不足関連倒産は289件に達し、前年の1.8倍という異常なスピードで急増しました。

特筆すべきは、賃金上昇に伴う人件費高騰(104件)以上に、募集に応募がない求人難(114件)や、組織の要を失う従業員退職(71件)が理由の過半数を占めている点にあります。

人手不足倒産を回避する認知の変革:無意識の思い込みを排し、選ばれる職場にするために【三上康一講師コラム】

この背景にあるのは、自社のやり方に固執してしまう自分視点の思い込み(心理的バイアス)と、働く側の価値観を想像できない他者視点の欠如(エンパシー不足)という、2つの根深い問題です。本稿では、経営者が無意識にかけている思考の色眼鏡をいかにして自覚し、外し、そして他者の視点を取り入れるべきか、その処方箋を解き明かします。

参照:中小企業庁「2025年版「中小企業白書」全文

2. うちは大丈夫という錯覚:去った人の声は届かない

中小企業の最大の強みは、経営層と現場の距離が近いことです。しかし、この近さが逆に、社員と十分に意思疎通できているという危険な錯覚を生む諸刃の剣となります。

経営者が日々接し、意見を交わし、飲みニケーションを行うのは、今も会社に残ってくれている社員たちです。彼らは経営者の考え方を理解し、現在の職場に適応した、いわば「会社に最適化された人たち」です。経営者は、彼らとの良好な関係を拠り所に、うちの会社に大きな問題はないと胸を張ります。しかし、これこそが情報の偏りによる経営の盲点です。

実際には、ここでは働けないと去った人や、最初から自社を職場として選択肢に入れなかった人が大勢います。彼らがなぜ去ったのか、なぜ選ばなかったのか。その不都合な真実は、残った社員の口からは語られません

3. 経営を狂わせる3つの思い込みの罠

なぜ、多くの企業は人手不足倒産になるまで自己改革に踏み切れなかったのでしょうか。そこには、人間の脳の仕組みに根ざした、抗いがたい3つの心理的な罠が介在しています。これらの罠は、経営者が優秀であればあるほど、強力にその目を曇らせます。

(1) 見たい現実だけを集めてしまう罠(確証バイアス)

心理学者ピーター・ウェイソンが提唱したこの概念は、自分の信念や仮説を裏付ける情報ばかりを収集し、不都合な情報を無視してしまう性質を指します。求人に応募がない時、この心理が働くと、経営者は今はどこも人手不足だから仕方ない、若者は楽な仕事しか選ばないといった、自らを正当化できる情報ばかりをメディアや周囲から拾い上げ、安心を得ようとします。一方で、採用に成功している競合他社の工夫や、自社の待遇が地域相場より著しく低い事実は、意識の外へと追いやられます。

(2) 熟練者ゆえに初心者の不安が見えない罠(ダニング=クルーガー効果)

心理学者のダニングとクルーガーが定義したこの効果は、特に技術力の高い現場で牙を剥きます。特定の分野で高い能力を持つ熟練者は、そのスキルが当たり前になりすぎているため、初心者が何に不安を感じ、どこで躓くのかを理解する感覚を失ってしまう傾向があります。かつて背中を見て覚えろという環境で育った経営者は、現代の若者が求める言語化されたマニュアルを甘えだと断じがちです。しかし、経営者にとっての当たり前は、新人にとっては出口の見えない迷宮です。

(3) 自分の熱量を他人に投影してしまう罠(自己中心性バイアス)

これは、他者のニーズを推察する際に、自分の経験や熱量を標準として相手に重ねてしまう心理傾向です。自分が寝食を忘れてこの会社を守ってきたのだから、社員も同じ熱量で尽くすべきだという思い込みがその典型例です。経営者は創業期の苦労話を美談として語りますが、現代の従業員が求めているのは過去への共鳴ではなく、自分自身の未来を守るための具体的な解決策です。やりがいという言葉で現場の過度な負担を正当化することは、最も早く社員にこの会社には未来がないと見限られる原因になります。

 4. バイアスの外し方:主観という色眼鏡を自覚し、調整する

これらのバイアスは脳の自動操縦機能であるため、気合や根性では解除できません。まず経営者が行うべきは、自分の主観がいかに歪んでいるかを認め、その色眼鏡を一度外すデバイアスのプロセスです。

(1) 反証をあえて探し、仮説を破壊する

確証バイアスへの最も強力な対抗策は、自分の信じたい結論とは真逆の証拠をあえて探しに行くことです。募集が来ないのは人手不足のせいだと結論づける前に、あえて近隣で採用に成功している会社を3社探し、自社との違いを書き出してください。これを反事実的思考と呼びます。自らの正当化を自ら破壊し続けることこそが、経営判断の致命的な見落としを防ぐ唯一の手段です。

(2) 自分の熟練を特殊能力と自覚する

ダニング=クルーガー効果や自己中心性バイアスへの処方箋は、自分の能力や熱量を標準ではなく特殊なものと認識することです。これくらいわかるだろうという感覚を、自分だけの特殊な能力として認識し、従業員には異なる能力が搭載されているという前提に立ちます。

5. 従業員に対するエンパシーの再定義:運用コストへの視点

バイアスという自分視点の色眼鏡を外し、思考の歪みを補正して初めて、真のエンパシー(知的な共感力)が機能します。これは単なる情緒的な寄り添いではありません。他者の視点に立ち、自社のビジネスモデルが従業員に強いている真実のコストを冷徹に算出する、高度な経営分析作業です。

経営者は、自社が労働市場というマーケットにおいて選ぶに値する商品になっているかを、以下の3つの具体的な他者視点から検証しなければなりません。

(1) 拘束時間のエンパシー:人生の可処分時間を奪っていないか

経営者は往々にして労働時間を法定内かどうかで判断しますが、求職者は拘束時間で判断します。自宅を出てから帰宅するまでの総時間を基準に、自社と競合を比較してください。始業前の清掃、着替え、形骸化した朝礼、そしてなんとなく帰りづらいという理由で発生する残業。これらは経営者にとっては無償の貢献に見えても、従業員にとっては育児や自己研鑽に充てられたはずの人生の損失です。この時間コストが他社より1時間長いだけで、あなたの会社は労働市場において、給与が数万円低いのと同等の劣悪な商品として格付けされます。

(2) 習得スピードのエンパシー:新人の不安を放置していないか

熟練経営者は技は盗むものと考えがちですが、現代の若手にとってマニュアルがないことは、自身のキャリアが停滞するリスクと映ります。3ヶ月で独り立ちし、成果を出せる仕組みが整っているかを評価してください。いつまで経っても何が正解かわからない不安は、新人の精神を急速に摩耗させます。誰でも最短距離でプロになれる教える仕組みへの投資を惜しむことは、従業員の学習コストを奪う行為です。

(3) 生活の安定のエンパシー:自社の基本給で生活の設計ができるか

やりがいや将来性を語る前に、冷徹な数字を見てください。自社の基本給だけで、その地域の家賃、食費、将来の貯蓄が可能なのか、具体的な家計簿をシミュレーションしてください。残業代や不安定な賞与を前提としなければ生活が成り立たない設計は、従業員に常に退職という選択肢を突きつけているようなものです。

 6. 結論:選ばれる企業へと進化するために

2025年版中小企業白書のデータが示す人手不足倒産の急増は、これまでの日本の中小企業を支えてきた経営者の当たり前が完全に崩壊したことを告げる警鐘です。人口減少社会において、人が来るのを待つという姿勢は、緩やかな自死を意味します。

バイアスの存在を認め、自分の主観を疑い、他者の視点を組織の核に据えること。それは自己の否定ではなく、従業員と共に持続可能な未来を築くための、最も誠実かつ勇敢な経営姿勢です。

主観的なこだわりという呪縛を解き放ち、客観的な働きやすさと個々の尊厳へとリソースを変換し続けた企業だけが、この激変の時代を生き抜くことができます。経営者が従業員に対する真のエンパシーを組織の核に据えたとき、中小企業は人が去り、消えゆく組織から、多様な才能が集まり、共に未来を拓く選ばれる組織へと、真の再生を遂げるはずです。

今の自分が見ている景色は、本当に正しいのか。その問いを自らに投げ続けることこそが、倒産を回避する唯一の道なのです。

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三上 康一(みかみ こういち)

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