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人手不足は「条件」ではなく「コンセプト」で乗り切る!中小企業のための辞めない組織づくり【三上康一講師コラム】

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中小企業のための辞めない組織づくり

執筆講師

三上康一さんお写真三上康一(みかみ こういち)
三上康一(みかみこういち)

株式会社ロードサイド経営研究所代表取締役

「求人を出しても全く応募がない」
「せっかく採用しても、数ヶ月であっさり辞めてしまう」…

現場を回るたびに、経営者や管理者の方々からそんな切実なため息を耳にします。

そんな折、ある週末の夜に訪れた「青森県特化型」の居酒屋での光景が、私に一つの確信を与えてくれました。メニューに青森の地酒と郷土料理が並ぶそのお店は、約30席がほぼ満席。

しかし私が最も目を奪われたのは、繁盛ぶり以上に、店内を駆け回る若いスタッフたちの姿です。彼らはただ料理を運ぶだけでなく、本当に生き生きと働いていました。そこには、人手不足の現場によくある「やらされ感」や「疲弊感」が全くありません。

なぜ、彼らはこれほど楽しそうに働き、そして辞めないのか。それは、彼らが単にお金を稼ぐための「労働力」ではなく、お店の「ファン」になっているからという印象を抱きました。

「隣より時給が50円高い」という理由で集まった従業員は、別の店がさらに50円高い時給を出せば未練なく去っていきます。条件でつながった関係は、より良い条件の前では無力です。しかし、「このお店の世界観が好き」「お客様にこの魅力を伝えたい」という深い共感で結ばれたスタッフは、そう簡単には離れません。

今回は、この「従業員のファン化」という視点から、人出不足にあえぐ中小企業が条件競争から抜け出し、今すぐ取り組むべき「辞めない組織づくり」の根本的な解決策についてお伝えします。

■「条件競争」という勝てないゲームからの脱却

中小企業が従業員を採用したり定着率の向上を図ったりする際、真っ先に陥りがちな罠が「条件競争」です。「求人媒体に出すなら、近隣の競合他社より少しでも時給を高くしないと人が集まらない」、「休日数や福利厚生を充実させないと見向きもされない」と強迫観念に駆られ、利益を削って無理な条件提示をしてはいないでしょうか。

もちろん、従業員の生活を守るための適正な労働条件は不可欠です。しかし、資本力に勝る大企業や大手チェーンと同じ土俵で「条件の切り売り」をしていては、中小企業はいつか必ず疲弊します。

一方、あの青森県特化型の居酒屋で働くスタッフたちはどうでしょうか。彼らは「時給」という数値化された条件以上の「何か」を受け取っています。それは、「青森の素晴らしい食文化を広める」というお店の存在意義(パーパス)への深い共感であり、お客様の喜ぶ顔を直接見られるやりがいです。

彼らはお店と、単なる雇用契約を超えた「感情的な絆(リレーショナルな関係)」で結ばれています。この絆こそが、他社がいくら好条件を提示しても揺るがない、強力な定着のフックとなるのです。

■ 従業員をひきつける源泉は「明確なコンセプト」にある

前段落で、従業員がお店のファンになることが定着の鍵であるとお伝えしました。では、どうすれば自社のファンになってもらえるのでしょうか。ただ「仲良くする」「アットホームな職場をアピールする」といった表面的なことではありません。その感情的な絆を生み出す核となるのが、事業の「コンセプト」です。

コンセプトとは、単なるキャッチコピーや思いつきのアイデアではありません。「誰の、どんな悩みを解決し、どのような独自の価値を提供して社会に貢献していくのか」という、事業の骨格であり、存在証明そのものです。

あの青森県特化型の居酒屋が、もし「和洋折衷、何でも安くて美味しい居酒屋」だったらどうでしょうか。おそらく、あれほどスタッフが生き生きと働くことはなかったはずです。「青森の素晴らしい食文化や生産者の想いを、お客様に届ける」という尖(とが)ったコンセプトがあるからこそ、それに共鳴する人材が集まり、単なる配膳作業ではない「熱量を持った接客」が生まれるのです。

■ 「何でも屋」は誰のファンにもなれない

中小企業の現場でよく目にするのが、「少しでも売上が欲しい」「お客様を逃したくない」という切実な思いから、ターゲットを絞りきれず総花的な事業展開に陥っている姿です。「あれもできます、これもやります」という姿勢は、一見すると間口が広いように見えますが、実は誰の心にも深く刺さりません

中小企業が人材獲得や定着において大企業に対抗するための唯一の道は、「局地戦」に持ち込むことです。ターゲットを絞り込み、「この分野(特定の地域、特有の悩み、独自のこだわり)なら絶対に負けない」というエッジの効いたコンセプトを打ち立てる。それが結果的にお客様からの強い支持(=ファン化)を生み、その感謝の声を現場で直接聞くことが、従業員の強烈な誇りや働きがいへとつながっていくのです。

■ 採用活動におけるコンセプトの「フィルター効果」

明確なコンセプトは、採用活動において非常に強力な「フィルター」としても機能します。

例えば、「うちは非効率でも徹底的に自然素材にこだわり、アレルギーを持つ子供たちに安心を届ける」というコンセプトを掲げた企業があったとします。この「こだわりと苦労」の裏側までを求人票や面接で前面に打ち出すと、「効率よく楽に稼ぎたい」だけの人は「面倒くさそうだな」と感じて自然と敬遠してくれます。しかし一方で、「食の安全に関心があり、誰かの役に立つ仕事がしたい」と考える人にとっては、これ以上ない魅力的な職場に映るのです。

つまり、コンセプトを尖らせることは、「自社に合わない人」を遠ざけ、「自社の価値観に共感してくれる人」を強く惹きつける磁力になります。これにより、入社後の「思っていたのと違った」というミスマッチによる早期離職を、根本から劇的に減らすことができるのです。

このミスマッチによる離職は企業に大きなダメージを与えます。まず初期教育に要した手間が水の泡になります。さらに、人手不足が解消されることを期待していた既存スタッフのモチベーションを低下させ、彼らの離職リスクを高めます。よってミスマッチによる離職を発生させないことが重要と言えます。

■ 強いコンセプトを創り上げる「3つの問い」

では、自社のコンセプトをどのように見直し、磨き上げていけばよいのでしょうか。経営者や管理者の皆様には、ぜひ以下の3つの問いに真摯に向き合っていただきたいと思います。

1. 「私たちは、誰の、どんな深い悩みを解決しているのか?」

万人受けを狙うのではなく、たった一人の具体的なお客様(ペルソナ)の顔を思い浮かべ、その人が抱えている本当の課題や欲求にどう応えるかを明確にします。

2. 「なぜ、他社ではなく『私たち』がそれをやるのか?」

競合他社でもできることなら、あなたの会社が存在する必然性がありません。創業の原体験、経営者の並々ならぬこだわり、長年の泥臭い経験から培ってきた独自の技術など、自社ならではの「理由」を深掘りします。

3. 「その価値を、どのような『世界観』で届けるのか?」

商品やサービスそのものだけでなく、接客のスタイル、空間づくり、情報発信のトーンに至るまで、お客様(そして従業員)が触れるすべての体験において、一貫したメッセージを持たせます。

この3つの問いに対する答えが一本の太い線でつながったとき、それは誰にも真似できない強力なコンセプトとなり、事業の新たな羅針盤となります。

■ 「条件」ではなく「共感」でつながる最強の組織へ

「求人を出しても人が来ない」「すぐ辞めてしまう」とため息をつく前に、まずは自社の事業の根幹である「コンセプト」を見つめ直してみてください。

時給を50円上げるのは簡単かもしれません。しかし、それは一時的なカンフル剤に過ぎず、すぐに効き目は切れてしまいます。それよりも、自社の存在意義を明確にし、エッジの効いたコンセプトを掲げ、それに共感する仲間を集めること。この道のりは決して平坦ではありませんし、時間もかかります。

しかし、そのプロセスを経て構築された「従業員との共感のネットワーク」こそが、他社がいくらお金を積んでも決して奪うことのできない、最強の経営資源となるのです。条件競争というレッドオーシャンから抜け出し、コンセプトという独自の旗を高く掲げること。それこそが、人手不足時代を生き抜く中小企業にとって、最も確実で、最も希望のある戦略なのです。

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三上 康一(みかみ こういち)

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