人手不足を乗り越える!ピグマリオン効果と傾聴で社員のモチベーションを引き出す方法【三上康一講師特別コラム】


執筆講師
三上康一(みかみ こういち)
株式会社ロードサイド経営研究所代表取締役
人手不足を乗り越える!ピグマリオン効果と傾聴で社員のモチベーションを引き出す方法【三上康一講師特別コラム】
目次

■はじめに
人材不足を解消するためには、単に「働き手を増やす」だけでは不十分です。組織内でのコミュニケーションが、従業員の定着率に大きな影響を与え、人材不足に陥りにくくなることを、私たちは認識しなければなりません。
コミュニケーションスキルの中でも、特に「傾聴」の重要性は高いと言えます。部下の声に耳を傾けることで、彼らの自信を引き出し、仕事に対する意欲を高めることが定着率向上に繋がります。
このプロセスには、ピグマリオン効果が働いています。ピグマリオン効果とは、他者からの期待がその人のパフォーマンスを引き上げる心理学的現象です。上司が部下の意見を尊重し、真摯に耳を傾けることで、部下は自分に対する期待に応えようと努力し、結果として組織の成長に貢献するようになります。
本記事では、傾聴とピグマリオン効果を活用し、組織における信頼関係と成果を高めた事例をご紹介します。
■期待が相手を伸ばすピグマリオン効果
ピグマリオン効果は、ギリシャ神話に登場するピグマリオン王に由来します。ピグマリオン王は、自分の理想の女性を彫像として造り上げたところ、それに恋をしてしまいました。王はこの彫像に命を与えて欲しいと強く願い続けたところ、愛と性と美を司る女神アフロディーテがその願いを叶えました。
ピグマリオン王が彫像に人間としての期待をかけたことが、彫像に命が芽生えることになったことから、他者に対する期待がその対象の成長や変化を促すことを「ピグマリオン効果」と呼びます。つまり、人は他者から期待されると、その期待に応えようと努力し、結果的に期待通りの成果を出す傾向があるということです。
1960年代、アメリカの心理学者だったロバート・ローゼンタールが実験によってピグマリオン効果を見出しました。彼は学校の生徒を対象に知能テストを行い、その結果に関わらずランダムに生徒の名前を選択し、教師にこの生徒たちは今後数ヶ月で成績が伸びると伝えました。
しかし、教師はローゼンタールの発言を信じ込んでしまい、その生徒たちは知能が高いという前提で接した結果、その生徒たちの成績は実際に伸びました。このことは、教師がその生徒に抱いた期待が、生徒の能力を高めたと言えます。
ピグマリオン効果は、教育だけでなくビジネスでも応用できます。例えば、上司が部下に対して、ポジティブなフィードバックをしたり、信頼感を抱いていることを表現したりすることで、部下のモチベーションを高め、能力を引き出すことができます。以下ではピグマリオン効果が脳の働きに与える影響について見ていきます。
■ピグマリオン効果が脳の働きに与える影響
ピグマリオン効果では、他者の期待や信頼が個人にポジティブな影響を与えるため、脳内での報酬システムが活性化されることが考えられます。期待されることによって、脳の「報酬系」と呼ばれる部分、特にドーパミンが分泌されます。この神経伝達物質は、やる気やモチベーションを高め、目標達成に向けた行動を促進します。期待をかけられることで、脳はその期待に応えようとする働きを強化し、成績やパフォーマンスが向上します。
また、ピグマリオン効果によって、人は自己効力感(自分にはできるという感覚)を高めます。自己効力感が高まると、脳の前頭前皮質が活発に働くようになります。前頭前皮質は、計画的な行動、問題解決、意思決定などを司る部分であり、自己効力感が向上すると、この部位がより効果的に働くため、より良い判断や行動が引き出されやすくなります。
さらに、期待されることによって、脳の神経可塑性が活性化されやすくなります。神経可塑性とは、脳が経験や学習を通じて変化する能力のことです。ピグマリオン効果によって自分の能力に自信を持つと、脳は新しいスキルや知識を吸収しやすくなり、その結果としてパフォーマンスが向上します。ポジティブな期待を受けると、脳内で新しい神経回路が形成され、能力が向上していくのです。
このようなメカニズムを踏まえ、以下ではピグマリオン効果を活用して大きな業績に繋げたガソリンスタンドの事例をご紹介します。
■ガソリンスタンドにおけるピグマリオン効果の事例
私はかつて複数店舗を展開するガソリンスタンド運営会社に勤務し、現場で店長を担っていました。当時、同社内の比較的小規模な店舗に勤務していたある若手社員は、タイヤや洗車などガソリン以外の商品を販売して客単価を向上させました。彼はその実績が評価され、私が店長を担う比較的大規模な店舗に転勤することになりました。
新店舗に赴任したばかりの頃の彼は、頻繁に入店する多くの顧客を見て「以前自分が働いていた店は来店客が非常に少なく、販売したくてもできない場合もありましたが、今度の店はいつでも販売が可能ですね」と嬉しそうに言っていました。
しかし、それからひと月もすると、彼の様子が変わってきました。元気がなくなり、販売実績も低迷するようになりました。
そこで私は、彼の悩みを聞き出そうと事務室で面談をしました。ですが、彼は販売を期待されて赴任してきたというプライドもあったためか、面談の場でなかなか本音を明かしませんでした。そこで私は傾聴スキルを活用して、根気強く聴きました。なお、傾聴スキルに関しては、以下の記事を参考にしてください。
そして、面談の場で根気よく傾聴する私に、彼はこう言いました。
■傾聴がピグマリオン効果を引き出す
「以前の店は客数が少なかったので、どのお客さんが、何をいつ買ってくれたのかが分かっていたんです。だから、お客さんのニーズに合わせて、最適な商品を提案できたんです。でも、今回の店ではお客さんが多すぎて、そんなことができません。どの商品をお勧めするべきかがわからないんです。」
そこで私は、次のような質問をしました。
「君は、どの商品の販売が一番得意なのかな?」
彼は、少し考えてから「タイヤですかね」と答えました。彼は、タイヤの知識が豊富で、顧客にタイヤの重要性やメリットを分かりやすく説明できることが自慢でした。
「じゃあ、タイヤ以外の商品は売らなくてもいいから、タイヤ販売だけに集中してみないか?」と言った私に彼は驚いてこう言いました。
「タイヤ販売だけに集中してしまうと、オイルや洗車など他の商品の販売予算が達成できなくなります。本社から何か言われるかもしれないですし。」
私は「大丈夫だよ。タイヤでオイルや洗車の分も稼いでくれればいいし、もし本社から何か言われたら店長の自分が対処するから。君なら自分の得意なタイヤ販売で大きな成果を出せると信じているよ。」と言いました。
「ありがとうございます。タイヤ販売に全力を尽くします。」こう言った彼は、その後給油中の顧客に対して、積極的に空気圧点検を申し出るようになりました。点検を通じて、タイヤが摩耗したりひび割れを起こしたりしていないかどうかを見極め、タイヤの交換が必要な顧客に対して、タイヤ交換の必要性を説明しました。
そして、その努力が実を結び、タイヤの大量販売が実現することとなり、彼は昇進を果たすことになります。
この事例からわかるように、傾聴はピグマリオン効果を引き出す有効な指導法となります。部下に対して、期待の言葉をかけて、成長を促しましょう。あなたが部下を持つ立場の人であれば、あなたの期待が、彼らの能力を引き出すことでしょう。
■まとめ:ピグマリオン効果でガソリンスタンド経営を成功に導く
この記事では、ピグマリオン効果を活用し、従業員の成長と組織の成果を高める方法について紹介しました。ピグマリオン効果は、他者からの期待がその人のパフォーマンスや成長を引き出す強力な心理学的現象です。この効果を発揮させるポイントは、部下を信じ、部下の話に耳を傾け、部下がやりやすいように環境を整えることです。
上司として部下へのアドバイスが必要なシーンもありますが、部下を否定せず、期待をかけることが最終的に組織全体の成功に繋がります。部下を信じ、ポジティブなフィードバックを与えることで、彼らはその期待に応え、組織に大きな貢献をすることができるでしょう。

執筆講師
三上康一(みかみ こういち)
株式会社ロードサイド経営研究所代表取締役
