中執アカデミー通信No.2:令和時代の労働組合の意義・役割とは②【梶浦正典講師特別コラム】

講演サーチおすすめの梶浦正典講師による特別連載。
好評につき「中執アカデミー通信」としてスタートしました。

中執アカデミー通信No.2:令和時代の労働組合の意義・役割とは②【梶浦正典講師特別コラム】
目次
執筆講師

ビジネス心理コンサルティング株式会社 主席コンサルタント
はじめに
来期の中央執行委員に立候補される(させられる)予定(意味深)の皆様、こんにちは!
中執の!元中執による!中執のための「中執アカデミー通信」では「なかなか他では聞けない本音ベースでの中執の悩み」にスポットをあててお伝えしていきたいと思います。
組合員のために、とか。
会社の発展のために、とか。
きれいごとばかり聞かされてうんざりしている中執の方も多いと思います。
労働基準法やら労働組合法やら。
人事制度や労働協約やら。
そんな大上段に構えた「労組とは!」ではなく、身近な中執のお悩みに寄り添い、ともに解決策を創りだしていく。
「中執アカデミー通信」はそんな場所にできればと思います。
過去の連載はこちら
中執アカデミー通信No.1

令和時代の労働組合の意義・役割とは~組合活動に夢と誇りとやりがいを~②
「孤独・孤立」の抱える問題
なぜ日本そして先進国において「孤独・孤立」が大きな社会問題になってきたのか。
それをわかりやすく伝えてくれるものとして、皆さんよくご存じの「マズローの欲求階層論」というものがあります。
アメリカの心理学者アブラハムマズローは人間には5つの段階の欲求がある、という「欲求階層論」を唱えました。
人間と動物の大きな違いはここだというのです。
人間はひとつの段階の欲求が満たされると、次の段階の欲求が出現してくる。それを追い求め進化発展してきた、そんな考え方です。
まず初めに求めた欲求は第一段階、生理的欲求(生存欲求)といわれるものです。
まさに食っていくため、生きていくための欲求ですね。
動物であればこの生命維持に必要な基本的欲求が満たされると満足します。ただ、人間の場合は違います。生理的欲求が満たされると次の段階に欲求が移っていくというのです。
次に求めた欲求が第二段階、安全欲求といわれるものです。
戦争の無い社会・危険のない社会、いわゆる「安全」を求める欲求に加えて、将来にわたっての生活の安定・その見通し、これも安全欲求に含まれるといわれています。
バブル経済前の日本、高度経済成長期の日本はこの安全欲求に突き動かされて一生懸命働いていた、そんな時代だったといわれています。
そして頑張って働きさえすればきっと幸せになれる、頑張って働きさえすればきっと自分の夢が実現できる。
そう信じられた時代でもありました。
日本全体の価値観・生きる目的の大半が同一方向性にあり、一致団結しやすかった時代ともいえます。
賃金の向上・労働環境の改善・組合員同士の横のつながりの確保。労働組合がその存在価値を存分に発揮できた時代でもありました。
ところが、バブル経済のころからでしょうか。価値観の多様化という言葉がよく使われるようになりました。そしてほとんどすべての人が安全欲求を満たすようになっていったのです。
そこで出てきた欲求が第三段階、所属の欲求といわれるものです。
集団に属していたい、仲間の一員でありたい、社会欲という言い方をすることもあります。人と一緒でありたい、人並みの生活水準を維持したい、こうした欲求もこの所属の欲求に含まれているといわれています。
ただ、現代日本そして先進国においては、この所属の欲求すらもほとんどの人がある程度の水準は満たしてしまった。
そうなるとこの高いレベルの欲求段階であっても、モチベーションを高めることにつながらなくなってしまっているというのです。
承認欲求中毒の日本
そこで出てくるのが皆さんも良くご存じの第四段階、承認欲求といわれるやつです。
もっと高いレベルには自己実現欲求というものもございます。
誰かに必要とされたい、誰かに認められたい、誰かに愛されたい。
この承認欲求こそが、現代日本そして先進国におけるモチベーションの最大の源泉だといわれているのです。
特に今の日本は「承認欲求中毒」という言われ方もします。
Xやインスタ等、SNS上には「自分のことをわかってほしい、認めて欲しい」というメッセージが溢れかえっています。
さあ、その承認欲求中毒の時代にコロナ禍が訪れました。
リモートワークが普及し人と人とのココロの距離が遠ざかり、ひとときは人間関係の煩わしさから離れて安堵していた人たちも気がつきます。
人間関係に煩わしさを感じるというのも、承認欲求の裏返しであるケースが多いことを。
個人主義が台頭し「自分のことだけを優先的に考える風潮」も一部に出てきました。
ダイバーシティ(多様性の受容)はその意図とは逆に、「他人の考えややり方を尊重し優先しなければならない」「その結果、自分のやり方や存在意義が否定されたかのように感じ、自己否定、自己非難、自己卑下というネガティブなサイクルに陥る」という承認欲求に反対のベクトルに向かうケースもありました。
こうして、急速に日本の中に「精神的な孤独・孤立」の問題が広がっていったのです。

労働組合の意義
マザーテレサは「孤独」についてこんなことを言っています。
「最も悲惨な貧困とは孤独であり、愛されていないと感じることです。」
この承認欲求中毒の時代。
個人主義が台頭し、「ハラスメント」という言葉が蔓延しすぎた弊害もあって、会社も非組合員である管理職たちも、なかなか組合員一人ひとりのココロに寄り添って支えてあげることが難しい時代になっているのが現実です。
だからこそ、労働組合なのです。
会社組織とは違う。だけど誰よりも組合員のココロを理解し、そばに寄り添える立場にいる組織。
私は令和時代の労働組合の最大の役割は「組合員一人ひとりのココロに寄り添い、その精神的な孤独・孤立から救い出すこと」にあると考えています。
もちろん、ベア・労働環境の改善といった労働組合の取組みは重要です。それがなかりせば所属の欲求が侵されますからね。
ただ、それら労働組合の取組みに加えて
「組合員を精神的な孤独・孤立から救い、モチベーションを引き出し、イキイキと笑顔で働けるようにサポートすること」
これこそが労働組合が取り組むべき重要な課題だと私は思います。
もちろん、既に「組合員の一体感の醸成」や「組織の活性化」というテーマは毎年の労働組合の運動方針に掲げられているかと思います。
ただ、もう一度、令和時代の今、労働組合の置かれた状況を見つめなおし、その重要な存在意義を再確認していただきたいのです。
皆さんは、労働組合の活動に「夢と誇りとやりがい」を感じていますか?
その重要な役割を、胸を張って誇りをもって語れますか?
今一度、労働組合の役割と存在意義について、考えてみてください。

執筆講師

ビジネス心理コンサルティング株式会社 主席コンサルタント
