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マズローの欲求5段階説を活用した新人定着の職場づくり【三上康一講師特別コラム】

執筆講師

三上康一さんお写真三上康一(みかみ こういち)
三上 康一(みかみ こういち)

株式会社ロードサイド経営研究所代表取締役

■「超早期離職」が止まらない現実と、その背景にある時代の変化

ゴールデンウィーク明けは、例年、若者の離職が増える時期です。特に、入社半年未満の「超早期離職」は、企業にとって計り知れない損失となります。「石の上にも3年」という言葉はもはや過去のもの。退職代行サービスの増加は、若手人材の早期離職が、企業にとってより身近で対処が困難な課題になっていることを示唆しています。

この「超早期離職」の背景には、現代の若者たちが育ってきた環境や価値観の変化が大きく影響しています。インターネットやSNSの普及により、情報へのアクセスが容易になり、多様な働き方や生き方が可視化されたことで、彼らは「我慢して働く」ことへの抵抗感が薄れています。また、終身雇用が当たり前ではない時代において、一つの企業に固執するよりも、自身の成長やキャリアアップを優先する傾向が強くなっています。このような変化を理解せず、旧来のマネジメントを続けていては、若手人材の定着は一層困難になるでしょう。

しかし、アメリカの心理学者エイブラハム・マズローが提唱した「欲求5段階説」は、この問題の解決につながる糸口となります。この記事では、マズローの理論を新人スタッフの早期離職防止にどう活かすか、各欲求が彼らのモチベーションと職場定着にどう影響するか、具体例を交えて解説します。

■マズローの欲求5段階説とは?モチベーションの根源を探る

「欲求5段階説」とは、人間が持つ欲求が階層的に存在し、低次の欲求が満たされることで、より高次の欲求へと段階的に移行していくことを説明する理論です。それぞれの欲求段階を見ていきましょう。

参考:A Theory of Human Motivation A. H. Maslow (1943)「Classics in the History of Psychology

1. 生理的欲求

生きていくために必要不可欠な、食べる、眠る、呼吸するといった根源的な欲求です。これが満たされなければ、人は他のことに意識を向けることができません。

2.  安全欲求

生理的欲求が満たされると、身体的な安全や経済的な安定、健康といった、安心して暮らせる環境を求めるようになります。雇用が不安定であったり、ハラスメントが横行したりする職場では、この安全欲求が満たされず、新人スタッフは強い不安を感じることになります。

3.  社会的欲求

所属と愛の欲求とも呼ばれます。安全が確保されると、人は他者とのつながりや集団への所属を求めるようになります。家族、友人、職場の仲間との絆は、人間が社会的な存在である上で不可欠です。

4.  承認欲求

他者との関係性が満たされると、次に他者から認められたい、自分の存在意義を確かめたいという欲求が湧いてきます。尊敬、達成感、自尊心、社会的な評価などがこれにあたり、満たされることで自信と自己肯定感が高まります。

5.  自己実現の欲求

これまでの4つの欲求が全て満たされると、自分の能力や可能性を最大限に引き出し、自分らしく生きることを追求する、最も高次の欲求が現れます。新しい知識の習得、創造性の発揮、個性の追求などが含まれ、この欲求は満たされるほどさらに高みを目指す、終わりなき探求とされます。

これらの欲求は、さらに「欠乏動機」と「成長動機」の2種類に分けられます。

■「欠乏動機」と「成長動機」:2つのモチベーションタイプ

1.欠乏動機

生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求がこれにあたります。これらが満たされない場合、人は不満やストレスを感じ、その充足のために行動を起こします。例えば、給与が低い、職場の人間関係が悪い、自分の仕事が評価されないといった状況は、まさに欠乏動機が満たされていない状態です。何か足りないと感じることが、行動の原動力となります。

2.成長動機

自己実現欲求がこれにあたります。この欲求を満たすための行動は、それ自体が目的であり、行動すること自体が喜びにつながります。自己実現を目指す過程は、終わりなき探求であり、達成感や充実感を得ながら、さらに高みを目指す原動力となります。欠乏動機が外部からの刺激や不足感によって生まれるのに対し、成長動機は内発的なものであり、個人の内側から湧き出る「もっと成長したい」「もっと何かを達成したい」という純粋な欲求に基づいています。

マズローは、人のモチベーションを高めるには、まず欠乏動機を確実に満たすことが不可欠であると説きました。土台となる低次の欲求が不安定なままでは、いくら高次の欲求を刺激しようとしても効果は薄いのです。

■実践事例:欠乏動機を満たし、早期離職を防ぐ具体的なアプローチ

・生理的欲求・安全欲求を充足させるOJT

従業員教育で多くの企業が採用するOJT(オン・ザ・ジョブトレーニング)は、仕事をしながら職場内で育成する手法ですが、新人スタッフの生理的欲求と安全欲求の充足を重視したガソリンスタンドの事例があります。トレーナーが常に新人に付き添い、2時間に1回の休憩を徹底させました。これは、「忙しいから休憩なし」が早期退職につながるという認識があったためです。身体が休まることで、新人は安心して業務に取り組めました。これは単なる休憩ではなく、新人スタッフが心身ともに健康な状態で仕事に取り組めるよう、企業が配慮していることを示す重要なサインです。

また、新人がミスをして自己嫌悪に陥ることは、安全欲求の不充足につながります。そこでトレーナーは、新人の接客や作業に目を配り、アフターフォローを徹底。これにより、新人は安心感を持って働けるようになり、心理的負担が軽減されました。

・社会的欲求を充足させる仕掛け

新人スタッフが、職場で既存スタッフの名前や顔をなかなか覚えられず、仲間意識や帰属意識を抱くまでに時間がかかることは少なくありません。これが社会的欲求の不充足からくる早期離職の原因となることがあります。孤立感は、離職を決意させる大きな要因と言えます。

ある食品スーパーでは、休憩室に既存スタッフ全員の名前、顔写真、趣味、星座、動物占いの動物などを記載した大きな模造紙を掲示しました。新人スタッフは休憩時間にこれを見ることで、先輩たちの名前と顔を覚えやすくなっただけでなく、共通の話題を見つけやすくなり、自然と会話が弾みました。この取り組みは、新人スタッフが自然に既存スタッフと打ち解けるきっかけを作った点で非常に優れています。

同店では、この取り組みの結果、退職率が3分の1にまで低下しました。この事例では紙媒体を用いましたが、店舗スタッフ専用のサイトを立ち上げれば、帰宅後や休日でも既存スタッフの情報を確認したり、サイト内でやり取りをしたりすることが可能になり、より効果的でしょう。

・承認欲求を充足させるための面談

新人スタッフは入社直後から仕事に慣れるまで、「自分が職場の役に立っているのか」と疑問を感じ、退職を考えることがあります。これは承認欲求の不充足が原因です。自分の存在が認められていないと感じることは、モチベーションを著しく低下させます。

そこで推奨されるのが、入社後2週間を目安とした職場リーダーとの面談です。本人の成果や長所を具体的に伝え、同時に抱えている悩みや不安の解決策を提案することで、彼らが安心して業務に取り組める環境を整えます。例えば、「〇〇の業務で、あなたは特に△△ができていたね。素晴らしい」といった具体的なフィードバックは、抽象的な褒め言葉よりもはるかに効果的です。

人は、欠乏動機である生理的欲求・安全欲求・社会的欲求・承認欲求が満たされてはじめて、成長動機である自己実現の欲求を抱きます。この段階を迎えて初めて、企業は成長を意識した育成へと進むことができるでしょう。

■まとめ:マズロー理論で早期離職を防ぎ、人材を定着させる持続可能な組織へ

退職代行サービスの普及により、若手人材の早期離職が深刻化する現代において、「石の上にも3年」という旧来の考え方は通用しません。企業が持続的に成長するためには、新人スタッフが安心して働き続けられる環境を積極的に構築することが不可欠です。

今回の記事では、マズローの欲求5段階説を参考に、新人スタッフの早期離職防止策を具体的に紹介しました。これらの対策は、単に「辞めさせない」という消極的なものではなく、「この職場で長く働き続けたい」と新人が心から思えるような、魅力的な職場環境を創造するための積極的な取り組みといえます。

「欠乏動機」が満たされてはじめて、新人スタッフは「この職場で長く働き続けたい」という内発的なモチベーションを抱くようになります。そして、その先にようやく「自己実現欲求」という「成長動機」を満たすためのステップが見えてくるのです。

マズローの欲求5段階説を理解し、各段階の欲求を意識的に満たすことで、新人スタッフは不安なく仕事に打ち込み、やがて自らの成長を追求する貴重な人材へと育っていくでしょう。早期離職という損失を避け、持続可能な組織を築くために、この理論をぜひ活用してみてください。

 

執筆講師

三上康一さんお写真三上康一(みかみ こういち)
三上 康一(みかみ こういち)

株式会社ロードサイド経営研究所代表取締役

 

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