落語の寄席を開くとエアコンが売れる理由【櫻木隆志講師特別コラム】

落語の寄席を開くとエアコンが売れる理由【櫻木隆志講師特別コラム】

櫻木隆志(さくらぎ たかし)
(株)南九州デジタル 取締役笑倍繁盛事業部長
「笑倍繁盛 絆の会」主宰
電器屋さんが落語の寄席?
街の電器屋さんが、落語の寄席を企画して、チラシを地域に配布しました。すると1人の初老の男性が、その落語のチラシを手に持って来店されました。
そのお客さんは店に入るやいなや、落語について熱弁を始めました。落語がとても好きな方で、自分の地域で寄席が開かれることがとても嬉しかったようです。落語についての愛とうんちくを滔々(とうとう)と語られ、地元で寄席が行われることをとてもよろこんでいました。
ひとしきり落語の話をされた後、そのお客さんの一言に店員は驚きます。
電器屋さんに来ているので、「エアコンを買い替えたい」という話をするのは全く申し訳なくないです。むしろそういう話をするのが普通で、電器屋さんにきて、落語の話をする方が相当変わっているのですが…。
結局このお客さんは、自宅のエアコン3台を買い替えることになりました。
落語のチラシにエアコンを載せていたわけではありません。エアコンどころか商品なんか一つも載っていません。落語の寄席を案内しただけのチラシです。電器屋さんがエアコンを勧めた訳でもありません。
落語のチラシを見てお客さんが自ら来店され、落語の話をされた後、お客さんが自らエアコンを買いたいと言われたのです。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか?
「好きなことつながり」の力
初対面の人と話をしていて、趣味やペットなど、好きなことが同じだと分かったら一気に仲良くなりませんか?
私だったら、ネコ、サッカー、哲学…なんかが好きな人とは、すぐに仲良くなります。近所の電器屋さんには普段は行きませんが、保護猫イベントや猫cafeを案内されたら行くかもしれません。ワールドカップなどの日本代表サッカー観戦イベントを企画されても行きたくなります。あと、哲学cafeとか読書会みたいなイベントにも興味を持つと思います。
そしてそういった「好きなこと」でつながったら、その人とは自然と仲良くなりますよね。そんな時、家の家電製品で買い替える予定のものがあったら、その店で買うかもしれません。仲良くなっているので信頼できるし、気軽に相談できて、安心して買うことができるでしょう。仲良くなって、信頼できる相談しやすい人になれば、その人から買いたくなります。
当然それは家電に限りません。洋服でも車でも、住宅でも保険でも、何かのニーズが発生した時、好きなことでつながった人がそのことに詳しければその人に相談するでしょう。
落語とエアコンは何も関係ありません。ネコと車も、サッカーと住宅も関係ありません。要は「好きなことでつながる」ということが鍵なのです。
落語の寄席を開いた電器屋さんと落語好きなお客さんは、落語という好きなことでつながりました。するとお客さんは「そろそろ自宅のエアコンを買い替えなきゃ」というニーズを思い出し、好きなこと(落語)でつながった電器屋さんに相談したわけです。
そこに、他店との比較や価格交渉はありません。お店が提示するそのままの価格や条件で買うし、時間がある時でいいからお願いね…、という感じになります。電器屋さんはそのお宅やニーズに合ういい商品をおススメして、丁寧に工事をして、販売後もサポートします。売る側も買う側も、とても満足度・幸福度が高い商売(買い物)になります。
好きなことでつながると、自然に売れるし、売り手も買い手も幸せな関係になれるのです。
「好きなこと」でつながるには?
では「好きなことでつながる」には、どうすればいいのでしょうか?
これは簡単な話で、売り手側が好きなことを発信することです。普通は、電器屋さんの店主や店員が何が好きかなんて、お客さんは知りません。だから当然、好きなことでつながることはありません。
先ほどの事例の場合は、お店が落語の寄席を企画してチラシを配ったことで、その店が落語が好きだということが、チラシを読んだ人に伝わったわけです。実際は落語が好きだから企画したわけではないのですが、チラシを読んだ人は、その電器屋さん=落語を企画してくれた人となり、好感や親しみを感じたわけです。
当然ですが電器屋さんの仕事と落語は全く関係ありません。だから普通は、電器屋さんが落語のチラシを配るなんてことはありません。でもそれをやったから、こうしたお客さんとの出会いが生まれて、売上も生まれたのですね。
仕事で知り合う人の中には、名刺に趣味が書かれている人とか、自己紹介で好きなことを伝える人とか、いますよね。そういう人は、知ってか知らずか「好きなことでつながる」という、ビジネスでとても有効な方法を実践しているのです。
好きなことでつながるだけでは売上にはつながらない
ただ、名刺に好きなことが書いてあって、好きなことが同じだったとしても、多くの場合は「あーそうなんだ」で終わります。多少の親近感は湧きますが、この人からモノを買いたいという衝動までは起こりません。
ではなぜ、上記のケースではエアコン3台の売上につながったのでしょうか?
その秘密は、その店が配った落語の寄席のチラシの内容にあります。以下、そのチラシに書かれていたメッセージです。
こんにちは 〇〇でんきです。
突然ですが、皆さんは落語お好きですか?
「落語大好き。生で見てみたいわ」って方。実はやっちゃいます(笑)
「みんなが笑顔になる時間」落語編
「なんで、また電器屋が落語?」て思いますよね。
実はこの辺りの街の電器屋って、何十年も、市民会館で合同展示会を行ってるんです。でも、私からしたら、ここ数年その展示会が全くお客さんに喜んでいただけてないなぁと感じてました。わざわざ遠方の市民会館に来ていただくのが申し訳なくて仕方ありませんでした。そして、ここだけの話そんな合同展示会には参加費が必要なんです。
お客さんに喜んでもらえないイベントにお金払う位だったら、何か他の使い道がないかなぁと悩んでました。そんな時、妻が「落語なんか楽しそうじゃない?」と言ってくれました。私も大いに賛成です。たまたま最近生で落語を見る機会がありました。ほんとに生で見ると、こんなに上手に人を巻き込んでお話しされる落語って素晴らしいなぁと思ってたんです。だったら、お世話になってるお客様にも楽しんでもらえたら最高だと考えたわけです。今のご時世ですから、入場者数を絞らせていただき、約六〇名とさせていただきます。ご参加は無料です。ただし応募が多い場合は抽選とさせていただきます。
参加ご希望の方は、左上の応募券を持ってご来店ください。ご来店が難しい方は「落語聞きたいねん」と気軽にお電話くださいね。
このようなお手紙をチラシに書いて配ったところ、前述のようなお客さんが来店され、あのような展開になったのです。
「好きなことでつながる」だけで終わらない秘訣が、このお手紙の文章の中にあります。それが何だかわかりますか?
それは「何のために落語の寄席を開くのか」という理由、そこにある店主の想いです。先の落語好きなお客さんの場合、このチラシを見て、落語の寄席に行くというだけではなく、その店でエアコンを買うという行動まで起こされました。
それは「落語好き」という共通点でつながったからというのもありますが、それだけではありません。この電器屋さんがなぜ落語の寄席を企画したのか、その理由や、そこにある想いに共感したからです。
この店は、単にモノを売ること、売上や利益をあげることが目的ではないんだ、お客さんや地域の人を笑顔にしたい、楽しんでもらいたい、そんな想いで商売をしているんだということが、言葉や理屈ではなく、実際の行動で伝わったわけです。
そのような考えや行動に対する共感が、この店から買いたい、この店を応援したいという衝動を生み、自然と行動を起こさせたのだと思います。
この事例に限らず、同じような例をこれまでたくさん見てきたので、そう断言できます。
私たち人間は、好きなことでつながり、想いに共感すると、応援したくなるものです。
好きなことを発信すること、想いを発信すること、一見商売に関係なさそうなことですが、そうした活動が目に見えない作用につながり、自然に売れるようになるのです。ただ売上があがるだけではなく、売り手と買い手の笑顔、心のよろこびにもつながるのです。

櫻木隆志(さくらぎ たかし)
(株)南九州デジタル 取締役笑倍繁盛事業部長
「笑倍繁盛 絆の会」主宰